芸術科教育コースによるブログです。授業内容や学校生活の様子などを更新していきます。

2012年12月14日金曜日

3学期の芸術科教育特講の授業が始まりました。

12月5日(水)から、3学期の芸術科教育特講の授業が始まりました。今学期の授業では、学習科学というテーマのもと、美術教育の研究方法について考察することになりました。三宅なほみ・三宅芳雄・白水始「学習科学と認知科学」『Cognitive Studies』9(3),pp.328-337(Sep.2002)によると、学習科学の特徴として「現場の学習を扱うこと・認知研究を基盤にすること・テクノロジーを駆使すること」(p.328)の3つがあげられています。第二回目の授業では、学習科学について、映像を通じて、数学アートの世界やコンピューターを使った図画の授業を見た後、前述の論考を基に、一例として、生徒同士が互いに学びあう協調学習の効果などについて考察しました。

2012年12月13日木曜日

3学期の芸術鑑賞論Aの授業が始まりました。

 12月4日(火)から芸術鑑賞論Aの3学期の授業が始まりました。今学期は、「モラル・ジレンマ」というテーマから、芸術鑑賞の可能性を考察することになりました。「モラル・ジレンマ」とは、人間が、道徳的なジレンマや葛藤を感じる場面に遭遇した際の状態を指します。このような状況に遭遇した際、どうすればよいのか、もしくは、どちらかに選択しなければなりませんが、その全ての選択肢に同等の価値が認められ、どちらかに優劣の順位をつけなければならない状態になります。この状態の際、人間は、道徳的な問題の観点に頼って、選択肢の優劣の順位を決まるしかありません。これが「モラル・ジレンマ」となります。  例えば、美術にこの問題をあてはめてみるとどうでしょうか。ある美術館の有名な美術作品が事件に遭遇し、損傷してしまったとします。その後、それを修復する際、実は偽物であったと分かったとします。その美術館の館長は、「このまま修復を続けるべきかどうか」悩むかと思います。この館長の立場となって、この問題を考えた際、ただ、修復するかしないのかを答えるだけでなく、なぜ、そう選んだのかという理由も考えて答える必要があります。  今学期は、受講者のみなさんが、このように、「モラル・ジレンマ」を美術業界にあてはめた際、どのような状況が考えられるのか、また、それに対してどのような回答を得られるのかを、実践し学びます。その後、各受講者のみなさんが、独自にこの「モラル・ジレンマ」を活用して、鑑賞計画を建て、ミニ実践を行ってもらうことになります。

2012年11月30日金曜日

2学期の「芸術鑑賞論A」(火曜3限)の授業が終わりました。

 11月13日(火)、2学期の「芸術鑑賞論A」の授業が終わりました。今学期は、アメリカのフェルドマン(Edmund Feldman)という方が提案した美術批評の方法を用いて、受講生の方々が各自、オリジナルのワークショップを提案し、授業内で行ってきました。その結果を踏まえ、反省点を各自の鑑賞方法に生かす、というものを行いました。8人の受講生の方に、毎回お2人ずつワークショップを実演して頂き、他の受講生の方々が参加者となり、毎回、終わった後に意見やアドバイスを交換しあいました。全て、とてもユニークなワークショップが行われ、各受講生の方々の個性があらわれたものとなりました。  前回、この授業で行われてきた鑑賞のワークショップについてご紹介しましたが、他のお二人の実演についても簡単に述べさせて頂きたいと思います。  ●アーテイストの藤浩志さんの提案した「かえっこ」という芸術活動をワークショップの題材として導入された方がおられました。藤さんは使わなくなったおもちゃを組み合わせ造形作品を創っておられる方です。それだけでなく、「かえっこ」と呼ばれ、使わなくなった、おもちゃを市民の方が持ってきて、別のものと交換するシステムを提案しています。ワークショップの中では、この「かえっこ」を、実物のおもちゃではなく、おもちゃの写真を使って体験することになりました。参加者の方達は2人一組になって、「かえっこ」を体験しました。  ●日本の仏像の鑑賞ワークショップも行われました。仏像は、その造形形式の特徴により、位(くらい)が分かるようです。どのような造形の特徴を見て、位が判断できるのか、ワークショップが行われました。参加者の方達は2人1組になり、自分たちで話しあって、配布された仏像の写真を位によって並べる活動を行いました。その後、仏像の位についての説明を受けました。

2012年11月22日木曜日

芸術科教育特講(水曜3限目)の2学期の授業が終わりました。

芸術科教育特講(水曜3限目)の2学期の授業が終わりました。前回のこの授業の内容を更新して以降、4回の授業が行われました。受講生である院生の方が選んだ論文を基に、デイスカッションが行われました。以下、その4つの論文の簡単な要約と院生の方から出された意見について記します。ネットでも全文が閲覧できますので、興味のある方は論文名を基にアクセスしてみてください。 ●坂倉杏介「『とまどい』の解消とクラスの成長—ワークショップ型」の授業に関する一考察:2008年度『芸術の現在』を事例にー」『慶應義塾大学日吉紀要. 人文科学』第25号,2010年p,325- 362.大学の授業で実際に行った継続的なワークショップの実践報告と考察です。ワークショップを行う際、参加者が対話の中で生じる「とまどい」を解消するよう提案されています。この参加者の「とまどい」とは、他の参加者とのコミュニケーションをする際の暗黙のルールを知らないため、対話の展開が予測できないため起こるものであると説明されています。 ●池内慈朗「レッジョエミリアとハーバード・プロジェクト・ゼロによるコラボレーション Making Learning Visible—幼児教育から学ぶドキュメンテーションによる学習過程の可視化—」『美術科教育学会』第31号,2010年,p.43-54.レッジョエミリアとハーバード大学で行われたプロジェクトには、中心人物の間に学術的交流があり、互いに影響関係があったとされ考察されております。院生の方の今後の自分の研究に向けた課題点としては、“なぜ、今の日本にレッジョエミリアのアプローチが必要とされているのか。”“日本の幼児教育には何が必要なのか。「地域にとけ込む学校」として、今後、どのような課題があるのか。”などがあげられております。 ●奥村高明「状況的実践としての鑑賞-美術館における子どもの鑑賞活動の分析」『美術教育学』第21号,2005年,pp.151-163頁. 美術館における子ども達の鑑賞の状況を観察することで、鑑賞学習への理論的枠組みを再検討していくものです。この論文の中では、子ども達が絵画作品を鑑賞して移動する際、立ち止まってくる、動きへの「よどみ」や、美術館側が鑑賞を手助けするために独自に設置している「しかけ」について影響が考察されております。 ●岡山万里・高橋敏之「大原美術館における『お話作り』による幼児のための絵画鑑賞プログラム」『美術教育学』第31号,2010年,151-161頁。大原美術館が1993年から行っている幼児対象の絵画鑑賞プログラム「お話作り」についての14年間の実施記録を基にした考察を行っています。院生の方の今後の自分の研究に向けた課題点としては、幼児にとっての「深い鑑賞」とは?何なのか。レッジョ・エミリアの視点でこれをやってみるとどうなるのか?などがあげられておりました。

2012年11月12日月曜日

芸術科教育研究A/ 10月16日(火),10月30日(火)、11月6日(火) 

芸術科教育研究Aの授業が, 10月16日(火),10月30日(火)、11月6日(火)の3日間あり4人の院生の方に研究内容を発表して頂きました。以下にレジュメから目的などを抜粋したいと思います。 ●「ファッション分野の展覧会における美術館教育」 研究目的/近年、美術館ではファッション分野の展覧会が増えている傾向にある。ファッションだけでなく複数の領域にまたがる展示など、様々な展覧会の形が存在する。以下、ファッション分野の展覧会をファッション展と表記する。  ファッション展で行われている教育普及活動は、美術展覧会と同様に講演会やワークショップなどである。しかし,美術館でのファッション教育という研究はあまりされてこなかった。また、ファッションデザイナーやファッション関係者を講師に招いて教育普及活動事例が多くあるため、どのような傾向があるのか事例をもとに検証していく。 ●「アートを通した幼児教育の可能性」 目的/日本の幼児教育における「子どもの表現」の発展をはかる。アートという視点を通して、社会的にあまりその奥深さが認識されていない「幼児教育」の価値を示す。論点/1.レッジョ保育がイタリアからアメリカに移入された時、実践者の間で一番違和感をもたらした問題となった点は何か?日本の場合はどうなのか?2.日本の現行の幼稚園教育要領・保育指針との協合性、あるいは不協合性はあるのか?3.結局、日本の我がレッジョ保育から学べることは何なのか?4.優れた幼児教育と言われているが、イタリアでの中学高校レベルではどうであろうかという疑問→成長した彼らはどのようになっているのか? ●「アートプロジェクトにおけるステークホルダー間のコーデイネート機能について」(*ステークホルダーとは、ここでは、プロジェクトにおいて異なる職務を持つ者同士を繋げる役割を果たす人物を指します)研究目的/アートプロジェクト運営組織の持続可能性を高める役割としてのアートNPOの視点から、アートプロジェクトにおけるステークホルダー間のコーデイネート機能について考察する。研究方法/1.先行研究、各種文献、資料からの考察。2.インタビューに基づく分析。 ●「第三章 モルデイブにおける美術教育実践:活動記録の質的分析」(*執筆中の修士論文の一部)本章の目的/モルデイブでの実践の様子を書き留めた「活動記録」を分析することにより、当時の状況を明らかにすること」/分析の視点 活動記録の視点には、筆者の主観が相当に含まれており、それらを実践における「客観的な事実」として分析するのはほぼ不可能であった。そこで、「記述には筆者の主観が含まれている」=「実践における状況や事象に対する筆者の解釈である」という前提のもとに分析を行うことで、分析そのものの信憑性を保とうと考えた。

2012年11月6日火曜日

芸術鑑賞論A(10月16日・10月30日・11月6日)の授業

10月16日・10月30日・11月6日の三回の授業の中で6人の院生の方により、鑑賞ワークショップが提案•実演されました。ワークショップの参加者の方々も院生の方々です。以下、その6人の方のワークショップを概観したいと思います。  ●先ず、絵に描かれた顔をテーマにして、鑑賞のワークショップが行われました。導入部で、福山雅治の顔の写真を例として提示し、顔を知らない人に言葉だけでその人の特徴を伝えることが困難であることが説明されます。次に、画家アンソールの顔が多く描かれた絵画作品の複製を提示し、参加者同士で自分がどの顔を選んだのか、言葉だけで相手に伝言しながら当てるというゲームを行います。次に漫画家のあだち充さんのキャラクターの顔が数多く掲載された図版を提示し、再び、どの顔を選んだのか言葉だけで相手に伝えるゲームを行いました。 ●国吉康雄の絵画作品を用いて、鑑賞のワークショップが行われました。参加者の方々は、先ず、国吉[鯨に驚く姉妹]という作品を基に、画家の経歴について説明を受けます。次に、参加者のお一人お一人が、国吉の7枚の絵画作品の複製図版(紙媒体・縮小したもの)を受け取り、一枚一枚の作品を見て、簡単な記述をし、分析したうえで、それを制作年代順に並べる活動をします。そして、なぜ、そういう順番に並べたのか、参加者らにその理由も聞いていきます。  ●澤田知子さん[OMIAI]という作品を使って鑑賞のワークショップが行われました。この作品は、お見合い形式で撮影された女性の写真が作品になっているものです。ワークショップでは、先ず,そのお見合い写真の複製を五枚、ワークショップ参加者に提示して、男性参加者の場合、結婚する相手を誰にするかを選び、女性の参加者の場合、息子さんがいたら、その結婚相手を誰にするのか選びます。その五枚の写真をボード貼り、ファシリテーター(院生の方)が、誰をどんな理由で選んだのかを聞いていきます。次に、澤田知子さんの別の写真作品(証明写真が数多く連なったもの)を見ることで、この作品の制作がいつ・どこで・何を・何によってなされたのかを考察し、各参加者らが一言ずつキャプションに記し、それをボードに貼り出し、対話型鑑賞を行いました。  ●物に変形するようデザインされた服をモチーフにし、鑑賞のワークショップが行われました。まず、布状でできた、色彩豊かなソフトクリーム・ホットケーキ・軍艦巻きなどの写真図版がみんなの前に差し出されました。図版にあらわれたモチーフは解体すると服になり身にまとうことが可能です。これを知ってもらい、みんなに物が変形する服について知ってもらいます。次に、より複雑な形をした変形する服を四種類提示し、人が身にまとったものと、物状になっているものの2パターンから、どの物がどの服なのかを当ててもらうゲームを行います。これらは、四人一組になって話し合いながら、どの服が変形したものなのかを推察していき、理由も考えていきます。 ●「作品を表わす二字熟語を考えよう」山下清さんの油絵や貼り絵などを見て、連想して、あてはまる二字熟語を選び、その理由を述べるというものです。あらかじめ準備されていた二字熟語の中から該当すると思われるものを各自参加者の方々が選び、その理由を述べていきます。次に、「作品から来年の抱負を考えよう」となり、山下清の花火をテーマとした貼り絵が年賀状にプリントされたものを見て、来年の抱負を二字熟語で記し、その理由も記します、参考として山下清の日記に記された内容も参考にすることができます。 ●ガボンのお墓を参考にして、アフリカ芸術の理解を深めるというワークショップを行いました。アフリカで用いられている民具がホワイトボードに張り出されますので、それを鑑賞し、各自参加者の方が意見を述べていきます。その後、実際にオリジナルの仮面を、ペンで描き、各自、自由にデザインします。最終的には、ガボンのお墓の写真を見て、これが芸術作品なのか、だとしたら価値があるのかどうか、をデザイン性などから、五段階のチエックリストを用いて評価します。

2012年10月21日日曜日

修士論文の中間審査会(10月4日 木)

 芸術科教育コース内の院生2年生の方で、修了を予定されているお二人の方に、修士論文の中間発表をして頂きました。「開発途上国における美術教育開発に関する質的研究—モルデイブ共和国での実践を事例としてー」と「知的障害児のコミュニケーション行動を促す美術科授業に関する研究—行動分析シートによる分析と考察」です。発展途上国をテーマにした研究は、前回の芸術科教育研究の授業のブログに公開致しましたので、今回は知的障害の方のコミュニケーションに関する研究から、以下、レジュメの一部を抜粋したいと思います。 研究題目「知的障害児のコミュニケーション行動を促す美術科授業に関する研究—行動分析シートによる分析と考察」 研究目的 本研究の第一の目的は、知覚障害児を対象とした美術科授業でコミュニケーション行動を促すための美術科授業を開発し、どのようにコミュニケーション行動が促されたかを明らかにすることである。授業でのコミュニケーション行動を判断するために、柳谷(2004)を参考にコミュニケーション行動分析シートを開発する。本研究の第二の目的は、アートワークショップに見られるコミュニケーションを促進する要因を検討することである。本研究で実施する授業では、その要因を取り入れる。つまり、授業実践は知的障害児の生徒が他者と主体的に関わり合い、学び合う具体的な仮説をコミュニケーションという観点により検証するものである。 研究背景/一つは特別支援学校卒業後のコミュニケーションによるトラブルである。コミュニケーションによるトラブルで、生活に支障をもたらすことは少なくない。そのため、学校に在籍している間に、多くの他者と関わり、自分なりの良いコミュニケーション手段を身につけていくことが必要である。  もう一つは知的障害児における美術科授業の役割である。知的障害児における美術科授業の先行研究は、他教科他領域に比べて少ない。しかしながら、特別支援学校在籍者数は増加傾向にあり、教科としても検討していく必要がある。また、特別支援学校の授業は、自立活動と密接な関連を図って行われなければならない、21年改訂のその内容の意思伝達がコミュニケーションに改められている。中学部では24年度から実施となり、今後高まる研究である。

芸術科教育特講(10月3日水 第4回目)

今回の授業では、ふじえみつる先生「美術教育のための「能力」観の研究」『美術教育学』(第28号2007年)を対象にして、デイスカッションが行われました。この論考は、新しい能力観として注目されている、competencyを基に、美術活動における「感性」の働きを再考したものです。今回のゼミでは、実際に学力検査として世界各国で行われているPISA調査の日本版をやってみることで、改めて、これからの美術教育に必要な能力観について話し合いが行われました。

芸術科教育研究(10月2日 火 第5回目)

今回は、修了予定の芸術支援コースの院生の方に、「『大森アートマップ』制作者の地域芸術文化に対する意識変化」を発表して頂きました。東京の大森町に点在するアートスポットのマップを通して、改めて、地域の芸術資源について考え直そうという意図をもった研究です。アートマップは、大森町住民の方々の意見と通して作成され、観光に来られた外部の方に使われます。  この院生の方は、実際に大森町のアートプロジェクトに参加され、マップ作りから、アンケートまでを行われた他、観光客の方々と大森町のアートスポットを散策する、町歩きプロジェクトにも参加されました。

芸術鑑賞論B(10月2日火 第五回目)

 10月2日の芸術鑑賞論は、院生の方々が各自、授業内において、鑑賞ワークショップのミニ実践を行うための、事前の話し合いが行われました。それぞれが選んできた鑑賞のテーマや作品を対象に、各自考えた実践方法を報告しあい、お互いに分からないことについて、アドバイスを受けるという形式をとりました。来週の授業は、月曜日課のためお休みですが、再来週からお二人ずつ鑑賞のミニ実践を授業内で行います。とても楽しみです。

芸術科教育研究(10月9日)は月曜日課のためお休みです。

芸術科教育研究(10月9日)は月曜日課のためお休みです。

芸術鑑賞論A(10月9日)は月曜日課のためお休みです。

芸術鑑賞論A(10月9日)は月曜日課のためお休みです。

芸術科教育研究(9月25日 第4回目)

今回の芸術科教育研究では、院生2年生の方で、修了のための中間評価を控えた方に発表して頂きました。以下、レジュメを基に、要旨をご紹介します。 題目「開発途上国における美術教育開発に関する質的研究—モルデイブ共和国での実践を事例としてー」 背景/途上国における教育の整備・発展をめざす目的で行われる教育開発研究において、美術教育の分野が積極的に取り扱われることはこれまでなかった。そのため、途上国の美術教育について、「模写中心」「教材がない」などある程度の推測は出来ても、その実情はあまりよく知られておらず、どのように支援すればよいかということに関しても、全く触れられてこなかった。そもそも、教育開発研究自体、途上国の実態やその背景にまで探るような事例研究は一般的ではなく、その本当の姿が十分に明らかにされているとはいえない。しかし、フイールドに長く身を置き、その土地の社会や文化をよく知る者のミクロな視点は、各々の文化の影響を直接受ける「美術」「美術教育」を考察する上では、特に重要であると捉えている。 研究の目的/1.開発途上国における美術教育開発の実態を、各種文献・資料より明らかにし、その背景要因について考察すること 2.モルデイブにおける教育実践の質的分析を通して、途上国の美術教育改善およびその支援の可能性を考察すること 研究方法/1.先行研究、各種文献・資料からの考察 2,筆者の実践記録に基づく質的分析及び考察

2012年10月6日土曜日

9月26日(水)芸術科教育特講(3回目)について

9月26日(水)には、芸術科教育特講(3回目)の授業がありました。この授業では、図画工作•美術教育の学力観について、論考を基にして、議論を交わしています。今回の授業では、佐藤学さん「リテラシーの概念とその再定義」という論考を基に話し合われました。リテラシーとは、一般的に、文字情報などを読みとる識字能力などのことを指します。佐藤さんは、この中で、リテラシーという言葉が、本来、19世紀以降の英語圏においてどのように位置付けられてきたのか、また、現代社会において新しく必要とされる能力とは何かを論じておられます。従来の学力は読み取る能力のみが重視されてきましたが、現在は、様々な状況に応じて応用できる能力が重視されております。それは、自ら問題意識を持って、自分の知識•技能を活用できる能力、コンピテンスと呼ばれております。  確かに、学校現場の授業においても、現在、生徒が社会や学外において技能が活用できるような授業計画が必要とされております。ですが、図画工作•美術教育の場合、そもそも、一般的な日常生活レベルの中で、美術の能力がどう役に立つのかも明らかにする必要があります。例えば、絵を描かせることは、情操を養い、色彩に対して敏感になることが目的とされ、決して画家になるためではない、とされます。専門家のための教育ではなく、義務教育ですから当然かもしれませんが。。。更に、ここで学習した内容が社会でどのような役に立つのか、その応用力を授業でどう教えるのか、また、それをどう評価するのか、という大変難しい問題があります。この授業では、美術の能力について様々なことが議論されました。

2012年10月2日火曜日

芸術科教育研究・3回目9月18日(火)の授業について

 9月18日(火)には、芸術科教育研究の3回目のゼミがありました。  お二人の方に、研究内容を発表して頂きました。以下、レジュメから研究の目的と方法について抜粋したいと思います。 □仮題「ファッション展における教育普及活動について」 ●目的 ファッション分野の展覧会を明らかにし、教育普及活動の可能性を探る●方法/ファッション展の歴史、美術と同じように展示されるようになった経緯を明確にする。過去行われたファッション展を把握し、事例を選出。教育普及活動として行われたものを分類。事例研究、教育普及担当学芸員(キュレーター)にインタビュー調査を行う。 □仮題「アートを通した幼児教育の可能性」 ● 目的「日本の幼児教育における『子どもの表現』の発展をはかる。アートという視点を通して、社会的にあまりその奥行さが認識されていない『幼児教育』の可能性を示す。●方法/先行研究、参考文献資料を収集し、分析する。実際に現地でのセミナーを園見学された方にインタビューし、その利点・課題などを明らかにする。日本でもレッジョエミリア・アプローチ(注)を参考にして取り組んでいる園が多数存在しているので、その実態・状況を調査し、分析する。資料や課題を検討した上で、私自身も現地に赴き実際の現場を見学し、セミナーに参加する。現地で得たことを実際に日本でどのように応用できるのか、日本での独自性や可能性を探る。 (注)レッジョエミリア・アプローチ 戦後以降、イタリアで行われてきた幼児教育。教育的意義として、アートを用いた活動を重視している。

芸術鑑賞論A(9月25日(火)・4回目)

 9月25日(火)には、芸術鑑賞論の4回目の授業がありました。今日は、受講生の方々のワークショップを実演する順番を決定し、更にワークショップの一例として私(和田)が、漫画を教材として用いた実践例を行いました。受講生の皆さん達には、美術批評教育の方法論を参考にしつつも、従来のワークシートを用いた鑑賞スタイルから発展したワークショップを提案・実践して頂くことが期待されております。

9月19日(水)の芸術科教育特講(水)は休講です。

9月19日(水)の授業は、大学自体が月曜日課ため休講です。

2012年9月29日土曜日

芸術鑑賞論(9/18火曜日・3回目の授業)

 芸術科教育コースでは、授業や研究指導以外に、様々な授業外活動を行い、社会貢献や院生さん達の教育・指導につとめております。昨年から始まりましたが、9月、筑波大学教育研究科ではつくば市教育委員会と合同で、市内の一部の小学生の能力について、調査を行っております。毎年、同じ小学生を対象にどのような能力の変化が起こるのかを、追跡調査しております。各分野の能力を教育研究科各コースの教官・院生の方達が、実際に各小学校に行き、出前授業の形式を取り、調査を行います。授業形式ですので、単なる調査ではなく、やはり、生徒さん達に対し、教育的な要素も加わってきます。図画工作の能力については、石崎和宏先生・私(和田)・芸術科教育コースの院生の方達と協力して、授業の形式を取り、小学生の生徒さん達の調査を行っております。院生の方には、何度か小学生の授業を実際に行って頂きました。大学院の授業もあり、大変、慌ただしい毎日になりましたが、実際に教育経験を積むことで勉強になったのではないかと思います。  さて、こうした中、9月18日(火曜日)には芸術鑑賞論の授業がありました。2学期の目標は、各院生さん達が、美術批評の方法論を用い、鑑賞のワークショップを提案・実践することで、各自の課題点を考察するというものです。今回は、米国のフェルドマンといわれる方の美術批評教育についての方法論を院生さん達と検討しました。この批評方法は、4段階を経て作品を鑑賞するもので、先ず、作品の見た物を客観的に記述する、次に作品内部の様子を分析する、そして、記述・分析の結果を踏まえ解釈する、最後に作品の価値について判断する、を経るというものです。こうして、鑑賞者の批評能力を育成してゆくというものです。従来のこうした方法を応用した活動は、鑑賞者が作品鑑賞を行う際、鑑賞用のワークシートにそれぞれの4段階に応じたチエック項目を設けることで、鑑賞者が書き込んでゆくという形式をとってきました。また、それを発展したものとして、カードゲームにより、批評能力を育てるというものもありました。今回は、美術批評の新しい可能性を模索するという意味から、「ワークショップ」とし「ワーク」という活動的な意味付けをする言葉を設けることで、新しい批評活動を院生さん達に提案して頂くように期待しております。(文責・和田学)

芸術科教育特講・2回目 9/12(水)

 暑い日も終わり、過ごしやすい日々になりました。ニュースやネットなどでは、連日、慌ただしい報道が続けられております。こうした激動の日本にいる中で、今後の教育研究はどうあるべきなのか、とても悩む所です。  さて、9月12日水曜日には、芸術科教育特講がありました。今回は、松下佳代さん編『新しい能力は教育を変えるかー学力・リテラシー・コンピテンシー』(ミネルバ書房)に収録された松下さんの「〈新しい能力〉概念と教育ーその背景と系譜」を基に、芸術的な能力とは何か議論されました。今回は石崎和宏先生が、この資料とそれに関する問題について提起されました。今回、取り上げた能力(ability)は、コンピテンシー(competencies)と呼ばれるもので、人間が様々な状況における多様な要求に対して、対応できる能力を意味するものです。こうしたコンピテンシーの構造の要素として、レジュメには、知識•認知的スキル・実践的スキル・態度・感情・価値観と倫理・動機付けが上げられております。更に、これらの構造は、今後、期待される人間の主要な活動、「道具を相互作用的に用いる」「異質な集団と交流する」「自律的に行動する」という各カテゴリーの中で、どのように位置付けられるか考察されております。 芸術に限らず、様々なジャンルにおけるコンピテンシー(適応・応用可能な能力)とな何か、を考察することは、こうした様々な状況における人間の活動に応じ、それぞれの構造(知識など)がどのように位置付けられるかのか考えてゆくものであると考えられます。そして、芸術による「コンピテンス」の定義とは、「アートの活動を通してイメージと言葉を相互作用的につなげ、人や社会、文化、価値観など、さまざまなことについて柔軟に考えを組み立てる力」とされます。たとえば、アートの統合的な機能に着目した場合、イメージや言語、右脳機能と左脳機能、美的教育論における理性と感性、などの二項を統合することが考えられます。これが、他の分野にはない特色と考えられます。このように芸術的なコンピテンシーの構造として、「統合力」「創造力」「柔軟性」「感性」があげられております。(文責・和田学)

2012年9月22日土曜日

芸術科教育研究(二回目)がありました。

更新が遅くなってしまいましたが、9月11日(火)には芸術科教育研究(二回目)の授業がありました。 芸術支援の修士課程の院生の方に、研究内容を発表して頂きました。アートプロジェクトにおけるコーデイネーターの役割について研究されているものです。現在、全国各地においてアートプロジェクトが積極的に開催されておりますが、プロジェクトに対しての正式な定義付けや約束事などが関係者らの共同認識にないため、関係者同士に“考え方のずれ”が生じるケースがあるそうです。この“ずれ”を解消するために、コーデイネーターの必要性が出てきています。既に、実際に活躍されている方もおられるようですが、まだ、本格的なコーデイネーターの位置付けには至っていないようです。この研究では、その位置付けについて研究されています。

2012年9月16日日曜日

芸術鑑賞論A(2学期・2回目)

9月11日(火)には、芸術鑑賞論A(二学期・二回目)の授業がありました。今回は、フェルドマン(Edmunnd Feldman)の美術批評方法についての検討、及び、受講生のみなさんが、ワークショップを実践されるうえでの、作品を選んできて頂きました。ある程度、素材研究をして頂いております。美術批評教育は、1960年代にアメリカで生まれた方法論を重視した鑑賞教育です。作品を客観的に見る「記述」や、作品の中にあるもの同士を比較検討する「分析」、作品の意味を考える「解釈」、作品の価値を決定する「評価(判断)」の4段階を経る鑑賞方法です。  今回の授業では、これらの4段階を、鑑賞者の価値判断を育てるために必要な能力と位置付け、相応しい教材研究と具体的な方法と活動を検討し、各受講生のみなさんにワークショップを実践して頂く予定です。

芸術科教育特講(2学期 1回目)

9月5日(水)から芸術科教育特講(2学期 1回目)が始まりました。今学期の前半部は、芸術教育における学習能力を中心テーマとして、研究論文を講読し、討論することになりました。来週から始まります。

2012年9月10日月曜日

芸術科教育研究(2学期)の授業(一回目)

9月4日(火)から、芸術科教育研究の授業が再開しました。第一回目は、現在の院生の方々の研究の進行状況や近況などの報告がされました。来週から、具体的な研究発表が行われます。

芸術鑑賞論Aの2学期(一回目)の授業が始まりました。

9月4日(火)から再び、芸術鑑賞論Aの授業が再開しました。2学期は、美術批評教育について考え、それを基にワークショップを計画•実践することになりました。最初の授業では、美術批評と鑑賞の違い、また、美術批評やワークショップを受講生の方々がどう考えているかについて、デイスカッションを行いました。美術批評教育は、1960年代のアメリカで生まれ、1980年代にピークを迎え、その後、急速に消えて行きました。美術批評という意味からは、日本にも戦前から存在しており、そのことについてもデイスカッションの中で触れられました。来週は、美術批評教育で著名なフェルドマン(Edmund Feldman)の美術批評方法についての理解を進める他、ワークショップの実践の中で、各院生の方々が用いる作品を持ち寄り、最初のデイスカッションを行う予定です。

2012年9月7日金曜日

奥村高明先生の集中講義(9月2日)

 先日、9月2日(日)には、教育研究科の集中講義「教育計画論」がありました。  芸術科教育コースの担当授業(1時間30分)では、聖徳大学教授(元文部省教科調査官)の奥村高明先生に図画工作の授業計画についての講義をして頂きました。奥村先生は、著書「子供の絵の見方」などで大変著名な先生です。元文部省という経歴や、有名人にも関わらず、誰からの問いかけにも気さくに応じて頂き、講義も常にみなさんの関心の声や笑い声が絶えませんでした。  奥村先生の講義には、たくさんの院生や現場の先生方が聴講に来られましたが、「はっ」とさせられるような言葉や、豊富な映像資料などで分かりやすく解説して頂きました。受講生のみなさんからは、大変な反響を受けました。例えば、生徒の図画工作の評価について、作品ではなく、生徒の視線の方向を見るべき必要性を説き、その具体的な方法を豊富な資料を通じ、分かりやすく解説して下さいました。  講義後も、奥村先生にご相談される現場の学校の先生方が後を断ちませんでんでした。その後、芸術科教育コースでは、研究室に戻り、奥村先生への質問をさせて頂くなど、勉強会を開き、とても有意義な時間を過ごすことができました。(文責・和田学)  

2012年7月4日水曜日

教育と学生との懇談会(教育研究科)がありました。

今日、7月4日(水)16:45〜18:00に筑波大学文科系修士棟 教育研究科大講義室にて、教育と学生との懇談会(教育研究科)がありました。各コースごとに分かれて、院生の方達が普段、考えている要望を教員の方達に伝える懇談会です。芸術科教育コースでも、話し合われました。ところで、今週、土曜日(7月7日)午後には、教育研究科にとって初めてとなる合同説明会があります。詳しい内容は教育研究科ホームページに掲載されておりますので、御気軽に御参加ください。

芸術科教育特講(10回目/1学期終了)の授業がありました

先週の水曜日になりますが、芸術科教育特講の1学期の授業が終わりました。今学期は、『はじめての質的研究法 教育・学習編』(東京図書)の各章を毎回の授業で講読しデイスカッションを重ねながら、美術科教育の研究分野への質的研究法の活用について検討してきました。一学期の最期の授業では、受講生の方が最も重要と思えた章をとりあげ、自分の研究分野にどのように役立てることができるのか、その可能性について発表して頂きました。  お一人の方は、「第8章 教室談話を介した学習の変容過程の記述分析から」を基に、ご自身の特別支援教育の授業を研究する際のリサーチのための指標として検討されていました。注目されていた点は、授業中の生徒の発話を調査する際、教師の学習支援活動が生徒の発話行為に影響を及ぼす、という所です。また、もう一人の方は、「第5章 質的・量的分析を組み合わせた仮説生成より」から、気になる専門用語を取り出して注目し、あまり多くの研究方法を一つの研究において多様するべきではなく、一方法を根気よく用いることが必要であると結論付けていました。

芸術科教育研究A(9回目)の授業について

先々週の火曜日になりますが、芸術科教育研究(9回目)の授業がありました。受講生の方お一人に、大学院修士課程の研究テーマとなる内容について図式を中心にして説明して頂きました。研究テーマは、幼児のための造形あそびの考察—教員養成課程における美術教育の展開—です。幼児教育における造形あそびに注目し、日本の教育現場において見直すべき点について考察されていました。この受講生の方は青年海外協力隊の一員としてアフリカのガボンに教員として働いており、その時の経験を交え研究を進めてゆきたいそうです。

2012年7月2日月曜日

芸術鑑賞論Aの授業(10回目/1学期終了)がありました

先週の火曜日、芸術鑑賞論Aの授業が終わりました。最後に、受講生お一人お一人が各自作品を選び、鑑賞文をA4紙により作成し、授業内で発表して頂きました。以下、7つの鑑賞文の題目・扱った作品・内容について記しておこうと思います。 ■(1)題目「真に迫る最期の情景」 作品○ミレイ[オフィーリア](絵画) 作者ミレイの生い立ち、作品が描かれた際のエピソードを記し、画中に描かれた花の花言葉の意味を調べ、作品の悲劇的な主題との関連性を解釈しています。 ■ (2)題目「こだわりのルール」 作品○戸来貴規[日記](オブジェ)作品の素材や作品の構造を分析し、作者の生い立ちや作品にまつわるエピソードを記し、それらを基に、制作時、作者がどのような心象状態であったかを解釈しています。 ■(3) 題目「題目なし」 作品○小川于銭「水魅戯」(水墨画) 作品の中に描かれたモチーフの様子を分析し、作者の水墨画表現の様式の説明、そして、制作の当時起きた関東大震災と作品のテーマとの関連性を解釈しています。 ■(4) 題目「日常のワンシーンを描く」 ○ホッパー「日曜日」(絵画) 作品に描かれたモチーフや作品タイトルと主題との関係を記し、作者の絵画表現の様式について説明した後、作品を映画や映像のワンシーンに喩え、作者の残した言葉との関係も交え、作品の意味を解釈しています。 ■(5)題目「ダークで、キュートな風刺画」 ○ゾーバ「じゃがいも倉庫へ」(絵画)作品のモチーフを記述し、作品全体のモチーフ同士の関係からストーリーをつくり出し、作者の生い立ち、作品の制作時のエピソードと時代背景を記した後、作者が当時の社会の様子を描き記したのではないかと解釈しています。 ■(6)題目「果ての果ての輝く生命を求めて」 ○草間彌生「果てしない人間の一生」作品のジャンルが何なのか問題点を提起し、作者の生い立ちと作風への影響、作品タイトルと作品のモチーフとの関係性、作品の形式の分析、作者の作った詩の言葉と作品に描かれたモチーフとの関係性が解釈されています。 ■(7)題目「題目なし」ジャコメッリ「死が訪れて君の眼に取って代わるだろう」(写真)作者の生い立ちと作風、作品制作時の時代背景を交え、作品内に写された二つの大きな対比関係を分析し、作品の意味について解釈しています。

2012年6月27日水曜日

芸術鑑賞論A(9回目)の授業について

こんにちは。更新が遅れてきましたが、続けていきたいと思います。  先週、火曜には芸術鑑賞論A(9回目)の授業がありました。  この授業では、自分の鑑賞行動を客観的にみることで、鑑賞技能を自己育成する、「メタ認知」をテーマに一学期間続けてきました。どのようにして、自分の鑑賞行動を客観視するかといいますと、例えば鑑賞して気がついた内容を文章で記して改めて見直すこと、また、他の人に自分の鑑賞行動を見てもらうことで、自分の気がつかなかった鑑賞行動に気がつくなど、様々なものがあげられます。  今回の授業では、アートゲームというジャンルを用いて鑑賞行動をメタ認知することになりました。アートゲームとは、美術館のギフトコーナーにも多くおいてありますが、美術作品の複製画を用いて作られたカードゲームやパズルのことを指します。日本では、あまりこうしたアートゲームが教育素材として普及しておりませんが、アメリカでは学校教材として普及しております。今回の授業では、ピカソの作品「ゲルニカ」のジグソーパズルを用いました。描かれたモチーフがバラバラになっています。背景や一部のモチーフはそのままで、磁石のついたピースをその上に貼付けることになります。特に、本物通りに完成させる必要はなく、画面構成上のバランスをみながら自分の判断で完成させてよいのです。ただ、完成した後、なぜこのようなピースの配置にしたのか、理由を他の方に説明しなければなりません。授業では、2人一組になり話し合いながら完成させました。  ゲルニカは中学校の美術の教科書にも良くあらわれるものなので、誰もが見たことがありますが、いざ、組み合わせるとなるとなかなか完成品が思い出せないものです。パズルが終わった後、改めて、本物のゲルニカを見て、自分が認識できていなかった部分が明らかになり、今までよく見ていなかったことが分かり、新しいゲルニカ作品が目の前に現われることになりました。

2012年6月15日金曜日

芸術科教育特講(9回目)の授業がありました。

こんにちは。この授業も来週、後一回を残すものとなりました。今回は、「第13章 多声的エスノグラフィーによる教師の思考と信念研究」をテーマにデイスカッションを行いました。多声的エスノグラフィーとは、映像により録画したものを様々な立場の方に見て頂き、発話して頂き、その発話内容を分析するという研究方法です。この研究では、保育園の授業風景を録画したものを、保育者の方に視聴・発話して頂き、その内容を分析しています。その後、発話内容から良い保育者のイメージ、良くない保育者のイメージという二つの相対的なテーマを基に、発話を分類します。この研究では、保育者が自分自身でも気がつかなかったような行動を調査・分析し、それを第三者である研究者が分析することで、新しい知見を得ることが目的です。ところで、他の授業となりますが、芸術鑑賞論の授業においても、鑑賞行為におけるメタ認知ということが問題とされています。メタ認知は、自己の鑑賞行為を再認識することで、鑑賞の技能を養うことが目的とされております。今回の研究のように、映像録画したものを、自己が視聴し、振り返り、その発話記録をも再び聞き返し、再認識するということは大がかりの活動となります。ですが、鑑賞活動においても、一度は試してみたいものです。

2012年6月14日木曜日

芸術科教育研究A(8回目)について

この授業は院生の方に研究発表をして頂き、デイスカッションをすることで研究内容の深化をはかるというものです。今回はお二人の方に発表をして頂きました。 (課題)「ファッション分野におけるアートマネージメント』  この研究のリサーチクエスチョン(問い)は、「ファッション展におけるアートとの関連性とは?」「アートには共通する部分があるのだろうか?」「そもそもファッション展の定義とは?」が考えられています。また、ファッション展と教育普及活動との関連性として、「ファッション展におけるワークショップの事例について」「現代アートの展覧会の教育普及活動と比較」があげられています。 (課題)「アートプロジェクトにおける持続可能性について」この研究は、地域で行われているアートプロジェクトを、どうすれば長期に渡り持続させることができるのか、という問いをもっています。資金の工面なども問題となりますが、特にアーテイストと地元民との仲介役を務めるコーデイネーターを置くことが重視されています。実例として、長野県の上信越国立公園の山ノ内町・志賀高原のアートプロジェクトを対象として、どうすれば今後も継続していけるのかを考察していきます。

2012年6月13日水曜日

芸術鑑賞論A(8回目)の授業について

水曜日には芸術鑑賞論Aの授業がありました。受講生の方々には、課題として「学芸員応募のための鑑賞文」というものを書いてきて頂きました。この課題は、スーラ[グランド・ジャッド島の日曜日]を見ながら、鑑賞文を記す、というものです。美術館学芸員の就職試験に出されるような状態を想定して書くことになりました。この絵画作品の美術史的な背景を記したものも配布されておりますので、その内容も参考にして鑑賞文を作成して頂きました。 授業内では、三人一グループとなり、書いてきた鑑賞文を朗読してもらい、それに対して他の2人の方がコメントを記すという活動をしました。更にそのコメントに対し、朗読した方もコメントを再び記すという活動をしました。他の方のコメントを参考にしながら、自分の記した鑑賞文を客観的に見ることが期待された活動です。鑑賞行動のメタ認知と考えられています。メタ認知とは、自分自身の活動を客観的に見て、反省的に認知することです。自分の鑑賞活動を反省的に認知することで、鑑賞の技能を自己育成することが期待された活動だと考えられます。

2012年6月12日火曜日

芸術科教育特講(8回目)の授業について

こんにちは。この授業は『はじめての質的研究法ー教育・学習編ー』(東京図書)を購読し、質的研究法の美術教育分野での活用の可能性を検討してゆくことが主な授業目的となっております。今回は「第八章 教室談話を介した学習の変容課程の記述分析」です。この研究は、道徳の授業中、生徒が談話を重ねてゆく中で、教師の指導により、生徒が話す対象の人物が変容するという場面を考察したものです。教師の側に向いて談話していた生徒が、指導を受けると、他の生徒に向け談話を始める、などがその例です。この研究で明らかになってきたことは、教室での生徒の談話が言語のみに限らず、生徒の立ち位置や身体の動き、視線の動きなどの非言語的な要素により成立していることです。また、教師の指導による生徒の談話行為の修正や、生徒同士の関係も大きく関係するそうです。更に、談話の文脈は絶えず変化してゆきますので、過去に話した内容が、その後に話した内容により意味が変わることもあるそうです。美術教育分野においては対話型鑑賞を視野に入れてはどうかという意見などが出ました。

芸術科教育研究A(7回目)の授業について

この授業は、院生の方達が研究内容を発表し、それについてデイスカッションをすることで今後の研究の指針とするものです。  今回はお一人の方が発表されました。以下、配布されましたレジュメを基に、私(*和田)が一部をご説明したいと思います。 (仮題)「途上国における美術教育開発はどうあるべきかーモルデイブ共和国における教育実践を事例とした考察ー」  この院生の方は、青年海外協力隊の一員として、実際にモルデイブ共和国に小学校教員として勤務されました。その経験を基に、同国の図画工作•美術教育がどうあるべきか、今後の指針を検討してゆく研究です。今回は、なぜモルデイブが美術教育を軽視しているのか、という要因の背景について社会的・文化的なものから述べられました。この国では、特に理数教科が重視されています。その理由は、経済発展に直接つながるという見込みがあると考えられているからだそうです。美術教育が軽視されている要因の一つに、その経済発展に結びつかない、ということが先ず考えられるそうです。次に、美術教育は、明確な成果が見えずらいことが挙げられております。更に、美術教育は多くの材料・道具が必要ですが、その資源に乏しいことがあげられます。以上が社会的要因と考えられるものです。また、戦前・戦後の日本もそうなのですが、美術教育は元来、欧米諸国から導入されながら、自国の中で試行錯誤を重ね、発展していくことが多いです。ですが、モルデイブでは、文化的価値観が独特のため、諸外国の教育者の理解・介入が難しい、という文化的要因が考えられます。また、無理に諸外国が同国に介入すると、モルデイブ本来の文化を消滅・変化させてしまう危険性もあるため、諸外国の教育関係者の方達の積極的な介入を妨げているのではないかと、指摘されています。

2012年6月10日日曜日

平成25年度入学説明会のお知らせ(筑波大学教育研究科・大学院修士課程)

平成25年度に筑波大学教育研究科(大学院修士課程)に入学をご希望される方々へご説明会が開かれます。  ◆三専攻(教育研究科/スクールリーダーシップ専攻・教科教育専攻・特別支援教育専攻)合同説明会  日時:2012年7月7日(土)13:00~(2時間程度)  会場:筑波キャンパス(文科系修士棟8B210)    内容:研究科紹介,入試・カリキュラム説明,専攻・コースごとの説明  問合せ:教育研究科事務室 029-853-4604  申込不要,当日参加OK   芸術科教育コースからも石崎和宏先生と私(*和田)や院生の方が参加します。入学しようかどうしようか迷われている方も含め、御気軽にご参加ください。

2012年6月7日木曜日

芸術鑑賞論A(7回目)について

こんにちは。筑波もだいぶ暑くなりました。  先日、火曜日には芸術鑑賞論Aの授業がありました。前回の続きとして、受講生の方々が自らの鑑賞文を自己分析した結果を、発表をしました。その後、この鑑賞文の分析のためのカテゴリーを用いて、受講生の方々が二人ずつペアになり、複製画を用いて対話型鑑賞をし、鑑賞中に自己分析をしながら鑑賞行為をすすめることになりました。  鑑賞中の自分自身を再認識しながら鑑賞行為を続けることで、絶えず、見方や考えを更新することができる試みだと思います。ですが、実際に鑑賞文のカテゴリー表を見ながら、鑑賞行為中に自己分析していくことは、なかなか難しいものです。それに、鑑賞行為の自然な流れを壊してしまうかもしれません。      そこで、石崎和宏先生が開発した携帯サイズの鑑賞キットを用いることになりました。この鑑賞キットは、数センチ四方の厚紙の中央に透明な四角いホルダーが付いておりますので、その中へ複製画を入れ、その周辺に、作品要素と鑑賞行為の分類名を記した小さなタグが、キットの周辺にぐるりと縦横の一方の片辺に計10個付いているものです。ちなみに非売品です。鑑賞する複製画の各要素の項目として、主題・表現性・造形表現・スタイルという名称のタグが4つ並び、鑑賞行為については、連想・観察・感想・分析・解釈・判断のタグが6つ横に並んでおります。タグを引っ張ると、タグが伸びて、その言葉の意味が書かれた短文を読むことができます。  今回、ペアで対話型鑑賞をしてもらいましたが、一方の方が進行役となり、もう一方の方は鑑賞する側となります。進行役の方は、鑑賞した方の発話内容から、どの作品要素に該当するのか、どのような行為に該当するのかを、逐次考え、それに該当するタグを引っ張ることで、鑑賞者の方に自分の鑑賞行為を認識してもらいます。メタ認知と呼ばれ、自分の認知の行為を更に客観的に認知する活動です。

2012年6月5日火曜日

芸術科教育研究A(6回目)について

先週、火曜日に芸術科教育研究Aの授業がありました。今回、発表された研究内容はお二人から二本です。以下、お二人のレジュメから研究の背景、研究の目的などを抜粋させて頂きたいと思います。 ●(仮題)「『Oomori Art Map』による住民の地域芸術文化振興に対する意識調査」 研究背景/近年、様々な話題性・先見性に富む“アート”の情報があるなか、最も身近な地域芸術文化を意識する機会は少ない。そのような状況の中で、人々の地域芸術文化に対する意識や関心とはどのようなものなのか。両者の関係性を考察するにあたり、アートマップという媒体が一つの重要な核になると考えた。 研究目的/1アートマップの制作を通じ、地域住民が地域のどのようなものを、どのように“アート”と定義づけ、取捨選択を行っているのかを調査することで、その地域に内包されている“アート”の実態を明らかにしていく。 2アートマップが地域の芸術文化と住民を繋ぐ媒体としてどのように機能するのかを検証し、今後のアートマップの有効性を提示していく。 研究の意義/1アートマップの制作過程を追うことで、成果物を分析するだけでは得ることのできない、住民の地域芸術文化に対する意識の変化を明らかにすることができる。 2住民の意識をアートマップという媒体に落とし込むことで、第三者がその地域の芸術文化、又はその場所を選定した住民の意識を理解することができる、また、マップにすることで地域芸術文化に関する情報の蓄積になる。 ●(仮題)「知的障害児のコミュニケーションを促す美術科授業に関する研究—遊び的要素を取り入れた授業の構想と実践—」 研究の目的/本研究の第一目的は、知的障害児を対象とした美術科授業で生徒間のコミュニケーションを促すための美術科授業を開発し、実際にコミュニケーションが促されたかを明らかにすることである。授業でのコミュニケーションを判断するために、先行研究や参考資料を基にコミュニケーション分析シートを開発する。本研究の第二の目的は、アートに見られるコミュニケーションを検討し、その意義を明らかにすることである。本研究で実施する授業では、コミュニケーションを促すために「遊び」の要素を取り入れる。この「遊び」の要素は、近年見られる現代アート作品やワークショップ作品でコミュニケーションを促す要素である。つまり、「遊び」の要素を取り入れた美術科授業の実践は、制作過程において、知的障害児の生徒が子ども同士で関わり合い、学び合う具体的な仮説をコミュニケーションという観点により検証するものである。 研究要素/知的障害児における美術科授業は、他教科や他領域と比べて先行研究が少ない。また、知的障害児における美術科授業での共同的な学びに関する先行研究が見当たらなかった。また、知的障害児における美術科授業は、生徒の発達段階が各々異なることやテイームテイーチングという指導の特性から個々の指導に着目しがちであり生徒間のコミュニケーションに着目する傾向が薄い。しかしながら、特別支援学校卒業後にコミュニケーションによる問題によってトラブルが起き、彼らの生活に支障をもたらすことがある。そのため、授業でのコミュニケーションは知的障害児にとって他者を意識して関わり合うことや「学びの共同体」として生徒同士が学習を通じて主体的な学びを育成するために必要である。

2012年5月31日木曜日

芸術科教育特講(7回目)の授業がありました。

昨日、木曜日は芸術科教育特講の授業がありました。今回は、『はじめての質的研究法—教育・学習編』の「第12章 パフォーマンス評価による学びの可視化」(松下佳代)を講読し、デイスカッションをしました。  パフォーマンス評価とは、生徒が問題を答える際など、解答へ至るプロセスを明確にし、多くの視点から考察することで評価するものです。問題を作成する際、最終的な答えだけでなく、なぜ、そういう答えになったのかという理由や、どういう行程を辿り、そういう答えに行き着いたのかなどの経緯を記述することで、生徒の理解度を知る事ができます。「学びの可視化」とは、そうした答えの背景を明らかにすることで、教師と生徒の学んでいる内容のずれを示すことができると作者の方は位置付けています。  さて、この生徒の答案(*筆者はこれをパフォーマンスと名付ける)の分析は、ルーブリックとタイプという二つの観点により行われます。ルーブリックとは複数の視点から見た評価基準であり、各基準の達成度ごとにどのような数値が与えられるのか、評価の目安を具体的に文章で記しておくものです。タイプとは、問題制作者があらかじめ予想した答え方がどのように生徒の答えに用いられているのか分析するための基準です。「単純型(事前に予想した解法のどれか一種類を用いたもの)」「併記型(複数の解法が区別された上で併記されたもの)」「混在型(複数の解法が区別されないまま混在しているもの)」「新型(事前に予想した解法の中には存在しなかったもの)」「不適切型(適切な解法がとられていないためにつまずいているもの)」があります。これらの基準を用いて、生徒の解答へ至るプロセスを分析することになります。

2012年5月29日火曜日

芸術鑑賞論A(6回目)について

今日は、前回の授業の中で、アートリポーターというソフトを使い作り出した鑑賞文を基に、これを分析し、受講生のみなさん各自の鑑賞の特性を知る授業活動が行われました。石崎和宏先生が提案されました分析方法を用いております。以下、授業の中で配布されました資料を基に、鑑賞文の分析方法について簡単ではありますが、ご説明したいと思います。  大きく分けて、文章の分析と表への記入となります。分析の方法は、先ず、鑑賞文の一文に注目し、主部と述部に分けて考えます。主部を「作品要素」と見て、「主題(絵の中の題材など)」「表現性(作品に表れる感情的な意味など)」「造形要素(色・線・形などの基本的な絵を構成する要素)」「スタイル(広い意味での作家の独特な作風)」の四つの中から該当するものを選択します。述部を「鑑賞行為」とみて、「連想(個人的な思いつきや考え)」「観察(絵の外観について客観的に説明する行為)」「感想(直感的に感じ取る行為)」「分析(画面に現われているものを要素に分解し、関連性を明らかにする行為)」「解釈(作品に対する理解に基づいて作品の意味について述べる行為)」「判断(作品に対する個人の反応や価値観を示す行為)の6つの中から該当すると思われるものを選択します。必ずしも、一つの属性に分析しなければならないわけではなく、二つの属性を持った複合型の分類も可能です。例えば、「連想・観察」、「観察・分析」などです。  次に方眼状となりました図への記入にうつります。「作品要素」の4つを縦軸とし、「鑑賞行為」の6つを横軸とした方眼状の図がありますので、そこに主部(縦軸)の「作品要素」の分類名と、述部(横軸)の「鑑賞行為」の分類名が交差する升目に記しをつけます。例えば、縦軸が「表現性」で、横軸が「連想」ですと、その二つが交差する升目に記しを付けます。一文、一文、こうした分析方法を繰り返し、しだいに升目がうまってきますが、個人差があり、特に集中して埋まる升目があれば、その人の鑑賞の時に重視しているものとかんがえられます。逆にうまっていない升目や用いていない「鑑賞行為」「作品要素」がある場合、軽視していますので、鑑賞の際、気を付けた方がよい特性を表わしています。こうした分析は、自分自身の鑑賞行為を客観的に分析することで、今後の美術鑑賞の改善に関する手掛かりとして役立つことになります。(文責・和田学)

ソフトボール大会と新入生歓迎会がありました。

昨日、月曜日の午前中、教育研究科の院生さん達により、学内のグラウンドで、ソフトボール大会がありました。その日の夕方には、食堂にて新入生歓迎会がありました。芸術科教育コースの院生さん達は、外国人教員研修留学生さん達(*海外の教育関係の仕事につかれており、母国の国費により留学されてきた方達)と同じチームとなり、ソフトボール大会へ出られました。午後から雨天となったため、残りの試合の決着は、夕方の新入生歓迎会でのジャンケン大会にて決めることとなりました。新入生歓迎会では、たくさんのテーブルの上にオードブルが並び、歓談を楽しみながら行われました。教育研究科の各コースの院二年の方達が、新入生(院一年生)方のための催しものを行いました。ダンスを踊ったり、おもしろいVTRを作って流したりと、大変な大盛況でした。

芸術科教育特講(6回目)について

先週の水曜日となりますが、芸術科教育特講(6回目)の授業がありました。 この授業では、毎回、『はじめての質的研究法—教育・学習編』というアンソロジーを毎週、各章ごとに講読し、美術教育における質的研究法の有効性を、みなさんで検討する授業です。院生の方が毎回、担当されました著書の章を要約しご自分の意見を発表し、みんなでデイスカッションする授業の形式をとっております。今回は、第11章「幼少連携カリキュラム開発へのアクション・リサーチ」(藤江康彦)を対象としました。  ここでは「アクション・リサーチ」というリサーチ方法が扱われております。 アクション・リサーチとは、教育現場を研究対象としてリサーチするだけではなく、実際に研究者がその教育現場に関わることで、その場固有の問題解決策を提案し、その方策を用いて問題解決を実際に行い、その結果を評価します。  今回の資料の中では、アクション・リサーチを用いて、幼稚園と小学校一年生の連携をはかるための幼少連携カリキュラム開発が分析されています。具体的な研究対象は、この幼少連携カリキュラムの開発に携わった人達の会議の口頭記録です。研究者本人もこの開発会議に参加しています。分析の焦点は、幼稚園と小学校の担当者達の用いている教育のねらいやカリキュラムという言葉の意味の違い、ずれです。このずれが、会議が進行するに従って変化していっていることに研究者の方は注目しています。

2012年5月28日月曜日

芸術科教育研究Aの5回目の授業がありました。

こんにちは。先週の火曜日の5限目には芸術科教育研究Aの5回目の授業がありました。この授業は院生の方がご自分の研究内容を発表し、他の受講生の方にアドバイスをお聞きすることで、今後の研究に役立てるというものです。 一学期は、まだ、具体的な研究の問題点が定まっておられない受講生の方(一年次の方など)もおられることから、リサーチクエスチョン(研究に関してどのような問いを定めるのか)を問う、あるいは問い直しながら、ご自身の研究の趣旨について発表して頂いております。  今回は、青年海外協力隊として、アフリカのガボン共和国の幼児教育にたずさわった方が、その現地での教育経験を交え、今後のガボンの幼児教育の展望を考える発表をされました。ガボンといいますと、日本ではあまりなじみのない国かもしれませんが、アフリカ中央部に位置し、フランス語を共通語とする国だそうです。  この国は、幼児教育だけでなく公的教育においても、美術教育の重要性がまだ薄い国だそうです。そのため、この受講生の方は、どうすれば美術、またはアートが、ガボンの幼児教育として重要視されるのか、考察していきたいそうです。

2012年5月23日水曜日

芸術鑑賞論A(5回目)の授業について

昨日は、芸術鑑賞論A(5回目)の授業がありました。  石崎和宏先生が作成した美術鑑賞支援ツール「アートリポーター」を用いて、受講生のみなさん一人一人が、実際に鑑賞文の作成を行いました。このツールはUSBメモリに入っており、パソコンに差し込むことで、活用することができます。最初に、鑑賞を始める前に、自分が鑑賞者として、どのようなことに関心があるか知ることができます。10の質問事項に答えていくこと、また、どの項目を自分が重視しているのか、という質問に答えていった後に、その結果がグラフ化されます。これにより自分が鑑賞行為において何を重視しているかが自覚できるわけです。  次に鑑賞文の作成です。今回はワイエス『クリステイーナの世界』という絵画作品を用いて実践されました。鑑賞文の作成は三段階を通じて行われます。作品をよく見る、作品の解釈をする、作品の判断をする、という過程をたどります。作品を良く見る段階では、作品に描かれている場面を言葉でメモする他、作品の背景に関するクイズや、アートゲーム(パズル・間違い探し)を通じて、よく見るための補助が行われます。解釈の段階になりますと、作品を見て連想したこと感じたこと、その理由を述べるため、「この作品を見て連想することは○○○です。なぜなら、○○○だからです」という文の○○へ言葉を導入してゆくことで答えてゆきます。判断の段階でも文章を作成し、最後に全文をまとめ、自分で文のタイトルを付けることで鑑賞文の作成は終了します。  来週は、受講生のみなさん各自、作成した鑑賞文を自分自身で分析して頂きます。

2012年5月22日火曜日

芸術科教育特講(5回目)の授業について

こんにちは。更新が遅くなりましたが、先週の水曜日には芸術科教育特講の第5回目の授業がありました。この授業は、質的研究と呼ばれる手法が美術科教育の研究分野にどのように活用できるのかを検討しています。  一学期は、教育分野における質的研究の有効性を検討するため、熊野正博・秋田喜代美監修『はじめての質的研究法ー教育・学習編』を基本文献とすることになりました。毎回の授業までに、担当の院生の方が決められた章の内容をレジュメにまとめてこられ、それを基に授業内でデイスカッションをするというやり方をしています。  今週は、「第三章 協調学習における理解化プロセスをどうとらえるか」を対象にしました。  協調学習とは、教師から生徒へ、知識を注入するという一方通行の授業とは異なり、生徒同士が学びあう授業形態をとったものです。生徒同士が互いに教え合い、異なる意見を交わし合うなどして様々な知識の活用法を学んでゆくことが望まれている学習形態を指します。特に、生徒の理解が協調学習により、どれくらい深まったのか、という評価の問題に対しては、従来の数値の測定に信憑性を置く量的研究だけでなく、別の研究手法も必要になってきます。それが、質的研究法です。  美術教育においては、特に知識の習得や理解の深まり、といったことが不鮮明ですので、その評価法について話し合いました。前回の授業でも触れましたが、アメリカの美術教育研究者のアイスナーは、美術教師が生徒の作品を評価する際、批評家や鑑定家のような技能が必要である、と提唱しました。生徒の理解の深まりをどう教師が評価するかについて、このアイスナーの評価の理論なども参考にして話し合われました。

2012年5月16日水曜日

芸術科教育研究(A)4回目の授業について

昨日、芸術科教育研究Aの授業がありました。  授業では、芸術支援学の院生(1学年)の方、お二人に修士学位取得のための研究論文の構想を発表して頂きました。具体的な問題点はまだ設定されていないようですが、今日は、リサーチ・クエスチョン(研究に関する問い)についてお二人が考えたものを要約してご紹介したいと思います。  以下、お二人のレジュメを参考にして、私(*和田学)がまとめてみました。 ■院生の方(お一人目)●研究テーマ/「ファッション分野におけるアートマネージメント」●リサーチ・クエスチョン/ファッションを鑑賞の対象として展示するということはどういうことなのか。ファッションとアートの関連性はどのようなものなのか。ファッション展における教育普及活動の可能性とはどのようなものなのか。 ■院生の方(お二人目)●研究テーマ/「アートプロジェクトにおける地域住民の継続的な参加を促す芸術支援」●アートプロジェクトを継続してゆくうえの問題点として、アーテイストと地域住民との見解にずれが生じるため、意思の疎通ができていない。プロジェクトの運営を継続してゆくうえでの資金確保をどのように工面すればよいのか(助成金の獲得など)。

2012年5月15日火曜日

芸術鑑賞論A(4回目)/家族による対話型鑑賞

先程、芸術鑑賞論A(4回目)の授業が終わりました。  今日は、前回の続きです。院生の方々が行ってきた課題の発表です。院生の方々がご自宅の家族を対象に、美術作品の複製画を対象にして、ざっくばらんに話す対話型鑑賞、あるいは、司会役を決めて対話による鑑賞をしました。次に、音声レコーダーに記録した対話内容を分析することで、鑑賞活動全体の大きな流れや構造を分析しました。  具体的な方法は、対話記録の中から、キーワードとなる言葉をピックアップし、一言一言を一枚一枚の付箋紙に書き込み、次に、付箋紙をグルーピング(分類)して、更に各グループ名を命名します。付箋紙を模造紙の上に貼りながら各グループごとにまとめて構成し、対話型鑑賞の流れと全体構造が解り易いよう、イラスト・説明などを記して整理します。  今日は三人の方に、その出来上がった模造紙を前にして説明して頂きました。 ■院生の方(A) ● 対象作品/小川芋銭『水魅載』●対話メンバー/夫・妻・息子(大学生)の三人 ● 対話形式/自由な対話●対話内容について/対話記録から抽出された言葉は、作品の中に何が描かれているのか、という問いへの答えが多かったように思えます。その対話記録を分類し、「中心」「絵の中で見つけて」「分析」「解釈」「流れるものは」「他には」、と命名されています。 ■院生の方(B) ● 対象作品/戸来貴規『日記』●対話メンバー/祖父・母・姉・妹(二十代)の四人●対話形式/自由な対話●対話内容について/現代美術の彫刻作品が対象のためか、作者がなぜこのような作品を作ったのかという制作意図を考えることが対話型鑑賞の目的となったようです。事件を解決する探偵の推理の行動が、対話型鑑賞の各行動に喩えられました。対話記録を分析した時のテーマは、縦軸と横軸を使った表により分類され、横軸が「証拠」「状況」「印象」「手段」「推理」「作者像」、縦軸が「立体的な視点」「平面的な視点」の二つです。この縦軸と横軸が交錯するマス目の中に、該当すると思われる言葉が記された付箋紙を貼っています。 ■院生の方(C) ● 対象作品/ミレー『オフィーリア』●対話メンバー/母・娘●対話形式/娘が母に問う一対一の形式で進められる●対話内容について/母が作品を最初に見た時点から、『オフィーリア』についての考えが発表されるなど、かなり作品テーマを掘り下げた展開となったようです。対話記録を分類し、命名したものは、「明暗から」「川の様子」「花の種子」「水面に浮かぶ花」「生をあきらめた姿」「どうして女性は水面に浮かんでいるか」「死」「生」です。 みなさん、ご家族で対話型鑑賞をされており、良い家族交流にもなったようです。  今日は、この他、授業の後半部に、石崎和宏先生から、美的発達段階についての説明がありました。この美的発達段階は、アメリカの美術鑑賞の研究者パーソンズさんが提唱したものです。この内容につきましては、次の機会にご報告したいと思います。(文責・和田学)

2012年5月10日木曜日

芸術科教育特講(4回目)の授業がありました。

水曜日には芸術科教育特講(第4回目)の授業がありました。この授業では、美術科教育研究への質的研究の方法論を導入するうえでの検討、あるいは、質的研究を院生さん自身の修士学位取得のための自己の研究のための方法論として活用することが期待された授業です。一学期は、秋田喜代美・能智正博 監修『事例から学ぶ はじめての質的研究法(教育 学習編)』(東京図書)を基本文献として講読を進め、デイスカッションを進めてゆきます。  今回の授業では、秋田喜代美さんが担当した「第一章 教育・学習研究における質的研究」(3〜20頁)を基に、デイスカッションをしました。この文献の中では、教育現場を基に質的研究を進める方への基本的な説明、質的研究がどのようなものなのか、質的研究にはどのような種類の研究方法があるのか、それらについて解り易くまとめてあります。  今回、この第一章の部分の要約を担当された院生の方がA4サイズのレジュメ一枚にまとめ、自分なりの意見を述べてもらい、そこからデイスカッションを進めることになりました。担当された院生の方は、養護学校の授業の中で行う、現代アートの共同制作を通じたコミュニケーションの可能性を研究テーマとしています。コミュニケーションといっても、言語ではなく、それ以外の表情・身体の動きなどにより養護学校の生徒さん同士が意思疎通をする様子をリサーチされるそうです。今回の文献の中には「教室でやりとりを取り扱う7つのアプローチ」(17頁)が掲載されていますが、その院生の方は、自分の研究が、そのアプローチの中の一つ、「社会的認知、状況論、活動理論のアプローチ」に主に相応するのではないかと述べられました。このアプローチは「教室での実践は個人の学習に影響を与えるよう、どのようなやりとりを行っているのか、個人の学習は教室での実践の社会的関与をどのように促すのか」と説明されております。本文にも記されておりますが、実際は、一つのアプローチに限らず、様々なアプローチを複合的に扱う、もしくは、一つのアプローチの中にも様々な種類のアプローチが存在しており、それらを柔軟に考慮していくことが必要となってくると思われます。  また、文献の中で、美術教科教育の研究分野でも著名な人物、アイスナー(Eisner)さんの提唱した教育的鑑識眼を持つことが、教育現場での質的研究の調査や評価に必要だと述べてある部分にも注目されていました。この教育的鑑識眼とは、教育現場で起こった現象を美術批評家のように記述・解釈・評価することを指します。文献の冒頭の章の中で、はやくも美術教育分野で著名なアイスナーさんの言葉が触れられており、質的研究と美術教科教育の方法論の接点が垣間見えるもので、非常に興味深いものでした。(文責・和田学)

芸術科教育研究A(3回目)がありました。

こんにちは。火曜日には、芸術科教育研究A(3回目)の授業もありました。この授業は、院生(修士課程)の方々に学位取得のための研究内容を発表して頂き、受講生のみんなで助言などを行うものです。  この日は芸術支援の方による、“アートマップ”の研究の内容が発表されました。アートマップは、直訳しますと芸術(美術)に関する地図ですが、ここでは、地域に点在する芸術作品の位置を示す他、地域住民が“アート”と定める場所や隠れた作品の位置を示す地図を意味します。実際に、このアートマップを活用し、参加者を募り、東京の大森町において町歩きが行われました。この研究をされている院生の方も、実行委員として参加されております。  以下、レジュメから研究背景と目的・方法を抜粋させて頂きます。 ○仮題「『Oomori Art Map』による住民の地域芸術文化振興に対する意識調査」 ■研究背景  近年、アートもメデイアというフィルターを介すことで、情報選択の最初の段階で、話題性・先見性のあるものが優先され、選択肢が自然と狭まってきていると考えられる。無意識のうちに取りこぼしている情報の中には、最も身近な地域芸術文化に関する情報も多く含まれていると思われる。そのような状況の中で、人々の地域芸術文化に対する意識や関心とはどのようなものなのか。両者の関係性を考察するにあたり、アートマップという媒体が一つの重要になると考えた。 ■研究目的 1 アートマップの制作を通じ、地域住民が地域のどのようなものを、どのように“アート”と定義付け取捨選択を行っているのかを調査することで、その地域に内包されている“アート”の実態を明らかにしていく。 2 アートマップが地域の芸術文化と地域住民を繋ぐ媒体としてどのように機能するのかを検証し、今後のアートマップの有効性を提示していく。 ■研究方法 1. 各種資料や文献調査から、マップの機能や意義を探る。 2. アートマップ「Oomori Art Map」制作に関わる地域住民への“アート”に対する意識調査(フィールドワーク調査・インタビュー調査)。 3. 制作したアートマップを用いた「まち歩き」の実施、及び参加者へのアンケート調査(及びインタビュー調査)。 4. 公共施設・各文化関連施設関係者への地域“アート”に対する意識調査及びアートマップ活用に関する調査(インタビュー調査) 以下略

2012年5月9日水曜日

芸術鑑賞論A(3回目)の授業について

こんにちは。  昨日、芸術鑑賞論A(3回目)の授業が終わりました。  この日は、連休中、受講生の方々が、授業外の活動として、他の方が美術作品を鑑賞した際の発話記録を録音してきて、分析・定義・グルーピング(分類)して検証し、自分なりに鑑賞の構造を図式化したものを持参されてきました。今日は、授業内で三人の方々に自分たちの作った図式について発表し、説明して頂きました。来週は、今回、発表できなかつた方に発表・解説して頂きます。  授業外で受講生の方々に行って頂いた活動は、次のようになります。先ず、自分の選んだ美術作品の図版を基に、二人程の人達に鑑賞・対話してもらい、それをボイスレコーダーで記録します。次に、そのボイスレコーダーの記録を基に、どういうキーワード(テーマ)が対話の内容に含まれているのか自分なりに、分析・解釈して、短文・単語を名付け、それを、付箋紙に一つ一つ記していきます。次に、それらの付箋紙を、更に類似するグループごとにグルーピング(分類)して、全体を整理し、図式化する段階となります。模造紙に、付箋紙を整理しながら、グループごとに貼っていき、色ペンで解説文を記すなどして、大きな図式を作り上げていきます。この際、対話の流れがどのようになっているのか、全体の対話の構造がどうなっているのか、それを考えながら、全体の大きな構造を作り出していきます。  図式といっても、学術的に堅いものではなく、誰が見ても解り易いようイラストなどで楽しく華やかに作成して頂くなど、作成のスタイルは自由でかまわないことになっております。今回は、イラストを付けるなどした非常にユニークな図式ができあがりました。例をあげますと、対話の流れを山から川、そして海に注ぎ込む水の流れに喩えて描いたもの、また、ウサギの糞食行動のように、一旦、消化したものを再度消化し直すような循環型の対話型鑑賞の流れ、をイラストで表現したものなどです。また、シンプルに対話型鑑賞の流れを図式化したものもありました。  図式、そしてプレゼンテーションによる説明などにより、解り易く説明して頂けました。

2012年4月25日水曜日

芸術科教育特講(3回目)の授業について

こんにちは。先程、芸術科教育特講の3回目の授業が終わりました。この授業は、秋田喜代美・能智正博監修『事例から学ぶ はじめての質的研究法』(2009年、東京図書)を読解しながら、美術教育領域の研究分野における質的研究の活用性について検討してゆく授業です。美術科教育専門の大学院授業において、美術科への質的研究の有効性を本格的に検討する先進的な授業だと思います。  授業の第1回目はオリエンテーション、第2回目は、現在の美術教育研究の状況について、美術科教育学会誌『美術教育学』の掲載論文のレビューを基にデイスカッションし、検討しました。第3回目の今日は、来週から本格的に始まる質的研究の授業に備え、従来、教育研究として、主流を閉めていた教育工学と、その後にあらわれた質的研究の特性の違いについて、文献をレビューしながらデイスカッションを行いました。特に、どちらかの方法論を排除することではなく、今後、双方を上手く活用していくため、言葉の意味についてしっかりと整理しておく必要があると感じ、今日の授業を行いました。参考にさせて頂いた、基本文献は平山満義編著『質的研究法による授業研究—教育学・教育工学・心理学からのアプローチ—』(北大路書房、1997年)に収録された「第2編 教育工学からみた質的授業研究 第1章 質的研究が教育工学においてめざすもの」です。今日の授業の中で、この文献のレビューを基に、デイスカッションが進められました。 次の4回目の授業は、『事例から学ぶ はじめての質的研究法』の「第一章 教育・学習研究における質的研究」を基に、レビューとデイスカッションが行われる予定です。 *ここからは、あくまで、授業内容に関する私(*和田学)が個人的に観察した内容となりますので、ご参考にしたい方のみどうぞ。  今日の授業のデイスカッションの結果の一つに、教育工学と異なり、質的研究は、様々な視点から考察する「羅生門的アプローチ」の性格を持っているのではないか、という意見に辿り着きました。教育工学と質的研究を比較するうえで、理解いし易いものだったように思えます。羅生門とは、芥川龍之介の小説ですが、一つの事件を様々な人の視点から語る内容のものです。研究分野においても、トライアンギュレーション(*トライアングル→三つの視点からの観測→多視点から研究対象を観察すること)という言葉がありますが、羅生門的アプローチも、多視点から一つの事象を観察するという意味合いがあるようです。従来の教育工学が、一視点から観察したアプローチであったものと比べ、質的研究は、様々な観測点から観察したものである、という位置付けです。  質的研究の特性を他の研究方法と比較して語られる際、量的/質的、実証的/脱実証的、その物自体/文脈的、研究者の主観/客観などがよくでてきたように思えますが、単一視点/多視点の違い、という対比はあまり見かけなかったように思えます。(文責・和田学)

2012年4月24日火曜日

芸術科教育研究A(二回目)について

先程、5限目(15:15〜16:30)に芸術科教育研究A(二回目)がありました。  この授業は、教育学研究科芸術科教育コースと芸術支援領域の院生の方々が毎回の授業で二人ずつ修士論文の研究内容を発表し、みなさんから意見をうかがうことで、今後の各自の研究の精錬のための参考とする、という内容の授業です。  今日は芸術科教育コースの二年の院生の方お二人に発表して頂きました。個人研究の内容ですので、私(和田)の視点から記す事は相応しくないと思いますので、以下、授業内で配布されました院生の方々のレジュメから研究内容の目的と背景を抜粋しました。題目は仮題です。 ●「開発途上国における美術教育開発はどうあるべきか―モルデイブ共和国での実践を事例としてモデル構築のための一考察—」(仮題) ○研究の目的/(1)開発途上国における美術教育開発の実態を明らかにし、その背景要因について考察する。(2)自身のアクションリサーチとしての実践を、内発的発展論の視点から分析し、美術教育開発モデルを構築する。 ○研究の背景/途上国の教育開発において、識字教育や理数科教育などと比較すると、美術教育の分野はこれまで積極的な議論がなされないできた。教育開発とは、途上国の教育の整備・発展を目指す活動を指すが、そもそも各々の文化の影響を直接受ける「美術」「美術教育」には、その「発展」を認め得る世界共通の明確な価値基準が存在しない。故に、支援する側(多くは先進国)の美術的価値観を拠り所としてしまいがちであり、ともすればそれは、途上国に対する一方的な価値観の押し付けともなりかねない。従って、途上国の文化を尊重することともにその特質を活かしながらも、独自の発展を目指すための視点を考えることが必要なのである。 ● 「現代アートの遊び的要素を含んだ共同的学びによる一考察〜知的障害児を対象とするコミュニケーションを重視した美術科授業の実践分析から〜」(仮題) ○ 研究の目的/(1)現代アートの要素と知的障害児における美術教育との関係性を、コミュニケーションの視点との視点により明らかにする。(2)知的障害児におけるコミュケーション構造から美術科授業におけるコミュニケーション分析シートを作成、及び授業実践を行い、授業の効果と課題を考察する。 ○研究の背景/知的障害児における美術科授業は、生徒の発達段階が各々異なることやテイームテイーチングという指導体制の特性から、個々の指導に着目しがちであり、生徒間のコミュニケーションに着目する傾向が薄い。しかしながら、特別支援学校卒業後に障害者間でコミュニケーションによるトラブルが起き、生活に支障をもたらす場合が見られる。  また、近年ではコミュニケーションを促す現代アート作品が見られ、美術館などの施設ではワークショップによるコミュニケーション活動が行われている。しかしながら、知的障害児が美術館などの施設に頻繁に行くことは難しいため、美術科授業において現代アートにおけるコミュニケーションに着目した授業実践を分析し、考察し、知的障害児における美術教育の在り方を探索的に検討する。  おおよその章立てはできましたが、今後、具体的な調査・執筆などが行われるそうです。また、随時、ご報告していきたいと思います。(文責・和田学)

芸術鑑賞論A(二回目)の内容について

先程、3限目(12:15〜13:30)に芸術鑑賞論A(二回目)がありました。  一学期は石崎和宏先生により、美術鑑賞のスキル(技能)を向上させるため、鑑賞行為の自己分析を行うための方法論を検討するための授業が行われております。  今日は、受講生の方たちが美術鑑賞する際の発話の記録を自己分析・再考することで、今後の鑑賞能力の向上が期待できるワークショップを実践して頂きました。  先ず、受講生の方々が各々好きな美術作品の小型の複製画を持ち寄り、それを基に二、三人のグループに分かれ、選択した一枚の美術作品(複製画)について自由に対話します。どなたかがファシリテーター(進行役)となり、対話の展開をリードしていく役目を荷ないます。ここでは、それ以外に、対話の仕方などについての制約は特にありません。対話中の発話記録は、レコーダーに録音しておきます。対話が終了した後、改めて、その発話記録を再生し聞き取ります。その中から特徴的なキーワードを拾い出し、短い文章で書きおこし、その短い文章(短文)を一枚一枚の付箋紙に記していきます。最後にそのキーワードとなる文章(短文)が記された複数の付箋紙を、グルーピング(似たような言葉の種類だと思うものごとに集めて分類する)しながら、模造紙に貼付け、色付きのマーカーで付箋紙の周辺を線でくくり、グループ名を命名します。どういう文章(短文)の集まりなのか、一言で命名します。これらの作業は二、三人で話し合いながら進めていくことになりますので、互いの協調性も重要になってくるものと思われます。終わりに、簡単にその模造紙に分類された内容の自己分析をしてもらい、みなさんの前で解説・報告して頂きました。  (*あくまで、私(和田)の私見となります) 今日の活動は、自らの鑑賞行為を再認識 (自らの発話記録を分析)し、鑑賞時、自分がどのように考えていたのかを視覚的に図式化(付箋紙を模造紙の上でグルーピングする)し、再認識することで、鑑賞の際の思考方法を精錬することが期待されていると思います。  ゴールデンウイーク開けの授業(3回目)には、再び各自の受講生の方々が、授業外で別の方と今日の活動を行い、その結果を模造紙にまとめ、各自、講義内で発表して頂くことになります。そうなると、発表の能力も必要になってくるものと思われます。(文責・和田学)

2012年4月19日木曜日

平成24年度の芸術科教育コースの開設授業について。

こんにちは。4月は年度始めということもありまして、教員・学生さんを含め、手続きや準備などで、みなさんがあわただしい日々を過ごされているようです。
平成24年度の芸術科教育コースは、コース特有の科目として、一年を通じて、火曜日に芸術鑑賞論Aと芸術科教育研究A、水曜日に芸術科教育特講の3つの授業を開講しております。芸術科教育コースに在籍されている院生の方達は、この他に絵画・デザイン・工芸・美術史などの実技・理論に関する芸術系の授業や、教育学・学校教育などの教育研究科の授業を自由に選択し、また、必要な方は、教職を取得するために必要な科目も受講しております。美術教育・教育関係の授業だけでなく、筑波大学芸術系(*旧芸術学系)の数多くの専門的な授業も学位取得のための単位として受講できます。このあたりも筑波大学芸術科教育コースの魅力的な部分だと思います。

平成24年度の芸術科教育コース特有の授業の内容をごく簡潔に述べますと以下のようなものです。

「芸術鑑賞論A」 対話型鑑賞を実践し、その鑑賞文の分析から、鑑賞能力育成のための可能性を検討する。美術批評教育の方法論について検討し、その可能性について検討する。
第一回目の授業が終わりました。自己紹介・オリエンテーション・親睦を兼ね簡単なアートゲームを行いました。

「芸術科教育研究A 」各自の研究内容(修士学位取得のための個人の研究)を発表し、授業内でデイスカッションをすることで、各自の研究内容改善のための助言を得る。
第一回目の授業が終わりました。オリエンテーションと各自の自己紹介、各自の研究内容の簡単な紹介を行いました。

「芸術科教育特講」美術教科教育の研究方法として質的研究の可能性について検討をする。質的研究の文献、美術教育の研究論文をレビューすることで、研究テーマや方法論などの検討を行う。平成23年度は、この授業の研究に関連して、平成24年3月末に美術科教育学会において院生の方達のみで口頭発表を行いました。
第二回目の授業が終わりました。美術教育の研究がどのようなものなのかを検討するため、美術科教育学会の学会誌を対象にして研究テーマを中心にデイスカッションしました。

 各授業の詳細は今後、お知らせしていく予定です(文責・和田学)

2012年4月17日火曜日

平成24年度の芸術鑑賞論Aの授業が始まりました。

こんにちは。つくばでは葉桜が目立つようになりました。今日、4月17日(火)には芸術鑑賞論Aの最初の授業がありました。一学期は、石崎和宏先生が担当されます。教育研究科の芸術科教育コースの院生さんら、芸術支援領域の院生さんらを含め、七名が参加されました。今日は最初の授業ですし、初対面同士の方も多いことから、オリエンテーションと自己紹介などが中心となりました。その後、美術鑑賞のカードを使った、カルタのようなアートゲームも行いました。一学期は、院生さんが対話型鑑賞を実践し、その鑑賞文の分析などを行います。詳細は次週からお伝えしたいと思います。

2012年4月9日月曜日

平成24年度もどうぞよろしくお願いいたします。

こんにちは。平成24年度も芸術科教育コースをどうぞよろしくお願いいたします。
今日、4月9日(月)は、筑波大学の学群(午前中)大学院(午後)と入学式およびオリエンテーションが行われます。
天候がとても良い中、桜も満開で、本当に良い入学式の日となっております。

今年度の芸術科教育コースのブログも、授業内容を中心にご報告させていただきたいと思います。
芸術科教育コースに関する行事やイベントなどのご報告は、芸術科教育コースのホームページ
http://www.geijutsu.tsukuba.ac.jp/~ishizaki/Arts_Education_Course/Home.htmlをご覧頂きたいと思います。

どうぞ今年度もよろしくお願い致します。

2012年3月21日水曜日

大学院学位記授与式(3月23日)・美術科教育学会(3月27日・28日)のご案内

平成23年度 筑波大学大学院学位記授与式の日程が正式に決定致しましたのでご参考までにお知らせ致します。

日時 平成24年3月23日(金)
場所 筑波大学講堂
次第 12:10〜12:45 修了生及び一般教職員入場
   12:45(10分)  奏楽
   12:55〜13:00 登壇する来賓・役職者入場
   13:00 開式
   13:00(1分) 黙祷
   13:01(25分) 学位記授与
   13:26(15分) 学長式辞
   13:41(5分) 修了生代表謝辞
   13:46(5分) 学生表彰
   13:51(5分) 送別の歌
   13:56分 閉会

*なお、翌24日(土)は、10:30から大学会館講堂にて、「筑波大学卒業・修了記念式典」が開催される予定です。


第34回美術科教育学会新潟大会
研究発表会の日程 3月27日(火)・3月28日(水)の二日間
場所 新潟大学(新潟市西区五十嵐2の町8050番地*新潟大学教育学部)


今大会も筑波大学所属の教員・院生の方々から、以下のような多くの発表があります。(*ここでは研究発表一覧の所属名が「筑波大学」と記されている方、もしくは現在、同大学大学院生在籍の方のみを掲載しております。OBの皆様方全員を取り上げていきますと、関係各位の方々をどこまで含めればよいのか明確な判断がつきかねる場合もございますので、ここではご紹介を控えさせて頂きます。ご了承おねがいします。)

◆3月27日(火)
●10:30〜10:55 第4会場(204講義室)
齋藤暁子先生(岐阜県郡上市牛道小学校)・宮脇理先生(元筑波大学)「ロシア法の日本手工教育への定着について〜一戸清方の『日本手工教育原論』の考察から〜」
●11:00〜11:25 第4会場(204講義室)
佐藤昌彦先生(北海道教育大学)・宮脇理先生(元筑波大学)「第一次アメリカ教育使節団報告書(1946年)とIFEL工作科教育との相関」
●14:50〜15:15 第2会場 (202講義室)
石崎和宏先生(筑波大学)・王文純先生「連想描画から言語活動につなぐ鑑賞力の考察」

■3月28日(水)
●10:00〜10:25 第1会場(201講義室) 
市川寛也さん(筑波大学大学院人間総合科学研究科)「アートプロジェクトを媒介とした地域と学校の連携ー《放課後の学校クラブ》の事例からー
●10:30〜10:55 第3会場(203講義室)
森芸恵さん・齋藤悠希さん・箕輪佳奈恵さん(筑波大学教育研究科)「他教科教員志望学生が美術教育に抱く問題意識の質的考察」
●13:00〜13:25 第1会場(201講義室)
直江俊雄先生(筑波大学)「英国中等学校における美術カリキュラムの編成動向」
●13:30〜13:55 第2会場(202講義室)
牧野由理先生(東京都市大学*筑波大学大学院人間総合科学研究科)「明治後期の幼稚園で描かれた図画作品の研究」


追記・今年度はどうもありがとうございました。これにて平成23年度のご報告を終了させて頂きたいと思います。次のご報告は平成24年度4月4日頃から始めたいと思います。来年度も筑波大学教育研究科芸術科教育コースをどうぞよろしくお願い致します。

2012年3月9日金曜日

平成23年度修了式・平成24年度入学式の予定日程です。

筑波大学大学院教育研究科の平成23年度修了式・平成24年度入学式の予定日程をお知らせします。
以下は、あくまで予定です。変更の可能性もあるかもしれませんので、お出でになられる方は、必ず筑波大学ホームページ等、もしくは直接、大学事務局へのお問い合わせなどにより、日時・場所を再度、ご確認ください。


●平成23年度 筑波大学大学院学位記授与式
平成24年3月23日(金) 12:00頃から14:00頃まで 筑波大学大講堂にて
      *この後、15:00頃から、各研究科・専攻ごとに別れて、学位記を授与
      (教育研究科は文科系修士棟B棟大講義室の予定です。)この後、15:30頃から、各専攻・コースに別れて学位記授与。

●平成24年度 筑波大学教育研究科入学式
       平成24年4月9日(月)13:00頃から14:30頃まで
     *この後、15:00頃から、各研究科・専攻ごとに別れて、入学者オリエンテーション
●平成24年 4月10日(火)10:00頃から 専攻・コース別オリエンテーション
●平成24年4月11日(水)から大学院授業開始の予定。

2012年3月8日木曜日

3月3日(土)の筑波大学の「未来の子ども育ち研究支援センターの創設」シンポジウム・調査報告会について

こんにちは。先週土曜日(3月3日)に、筑波大学の「未来の子ども育ち研究支援センターの創設」シンポジウム・調査報告会が開催されました。この調査は、現在の「子どもの運動能力、社会性、学力、言語力などの低下」などから「子どもの育ちの危機」が問題視される中、「未来社会でつながりをもってたくましく生きるために子どもが身につけるべき基本的な力=キー・コンピテンシー(key competencies)」を定め、調査することになったそうです(*レジュメから抜粋)。
 つくば市の教育委員会と筑波大学が提携し、つくば市内の小学校を対象にし、子どもの運動能力や芸術的な能力などを調査しました。
 芸術科教育コースからは、石崎和宏先生が、つくば市の小学校を調査した結果(中間報告)を「芸術的感性の発達」として調査報告されました。
 調査の目的はレジュメによると、「(1)アートを通じてイメージと言葉を相互作用的につなげ、考えを柔軟に組み立てる力を『芸術的感性コンピテンシー』ととらえ、その力を測定する尺度を開発する」「(2)形とイメージをつなげる力、イメージと言葉をつなげる力、考えを組み立てる力の関係を総合的に分析する」とあります。
 子どもの芸術的感性の調査は、「調査票」を使って行われます。この調査票には、マグリットの「大家族」という絵の輪郭線(*鳥がY字型に大きく羽ばたいている形・海の地平線)のみが記された絵があり、自由に子ども達が描き足すことができるようになっています。さらに、調査票には、この絵の他に、絵を見て感じたこと、考えたことを文章で書き記すことができるような欄が数多くあります。
 子ども達は、先ず、マグリット「大家族」の輪郭線から自由に発想を膨らませて、クーピーを使い描写を加えます(10分)。次に、その描いた絵に題名と、その絵が語る物語を記します(5分)。次に、実際のマグリット「大家族」の実物の複製画を配布し、子ども達に観てもらい、マグリットの実物の絵の中で対比しているものを探し作品分析をしてもらいます(5分)。次に、マグリット「大家族」の作品説明を配布し、作品の背景を知ってもらいます(3分)。最後に、これまでの分析や作品情報、感じたこと知ったことをつなげ、作品に何らかの判断を下してもらいます(5分)。ここで終了です。子ども達の調査結果などは、ここでは割愛させて頂きます。
 当日は、大学関係者のみに留まらず、現場の教員の方など数多くの方が出席され、とても意義深い意見交換も行われました。

2012年3月5日月曜日

外国人教員特別留学生さんの研究発表会

こんにちは。今日は一日、雨でした。

■今日(3月5日月曜日)は、午前中に教育研究科に在籍された外国人教員研修留学生のみなさんの研究成果の発表報告会がありました。夕方四時から留学生のみなさんの修了式がありました。今日は一日、直接、外国人留学生に関係する方のみが参加する小規模の会でした。午前中の発表者の方々は英語、もしくは日本語で発表されました。研究内容は、日本と自国の教育制度や教授法を比較した研究が主だったように思えます。それぞれ、インドネシア・タイ・韓国・中国(3人)・メキシコ(2人)・ガボンの方9名です。みなさん、自国では現職の教員、もしくは政府の教育機関で働いている方達です。3.11以降、外国の方(留学生の方を含め)が日本に来られることは少なくなりました。現在の日本の状況が正確に伝わっていないお国もあるかと思いますので、留学生のみなさんが、自国に戻り、正確な日本の現状を広くご報告頂ければ、幸いだと思います。夕方には修了式があり、華やかに和服を身につけた外国人留学生の方々が、無事、修了されました。

2012年2月29日水曜日

修士論文構想発表会・修士論文発表会

こんにちは。今日、2月29日(水)14:00〜16:00は、教育研究科芸術科教育コースの修士論文構想発表会・修士論文発表会が開かれました。普段、授業ではご指導頂けない先生方に来て頂き、貴重な御意見を伺いました。デイスカッションも非常に白熱したものとなり、あっという間に終了予定の16:00を過ぎ、とても充実した発表会となりました。

◆修士論文構想発表(プレゼンテーション15分 指導助言15分 資料(A4判)を準備
●「開発途上国における美術教育開発はどうあるべきかーモルデイブ共和国での実践を事例としたモデル構築のための一考察ー」(仮題)
●「現代アートの要素を含んだ共同製作による効果と仮題ー知的障害児を対象とするコミュニケーションを重視した美術科授業の実践ー」(仮題)

◆修士論文発表会(プレゼンテーション20分 指導助言10分 資料(A4判)を準備
●「現代アートを題材とした小学校と美術館の連携プログラム

●学会口頭発表事前検討(プレゼンテーション20分 指導助言10分 資料(A4判)を準備)
「他教科教員志望学生が美術教育に抱く問題意識の質的考察」



*ご案内/芸術鑑賞論Bの授業を受講されている芸術支援コースの方がスタッフなど運営に参加しているアート・プロジェクトをご紹介します。興味をお持ちの方は、ネットでの検索をお願いします。

◆大森アートフェスタ/2012年3月16日(金)〜3月20日(火祝) 東京都の大森町を中心に開催される様々なワークショップ・展覧会など。(大森アート・ビレッジ プロジェクトの一貫です)
特に、受講生の方が関わったプロジェクトが、「大森アートまちあるき」(大森のギャラリー・アトリエとアートスポットを巡るおすすめコースを設定し、アートなまちあるきを行います)です。「大森アートマップ」を作成し、大森に在住するアーテイスト、ギャラリー。博物館、芸術的な産業技術、アートスポットを紹介する地図を作成し配布します。*「大森アートまちあるき」3月17日(土)13:00〜17:00 大森駅中央改札口13:00集合 参加費無料「大森アートマップ」進呈 事前申込要 お申し込みお問い合わせ「大森アート・ビレッジ プロジェクト事務局」TEL/FAX:03-5935-7881(平日13〜17時) E-mail:art@oomori-cafe.com

◆全児童自動館/2012年3月17日(土)10:00〜17:00 会場/練馬区立中村児童館(東京都練馬区中村2-25-3 2階)
中高生とアーテイストがつくるアートイベントです。一日限りの文化祭です。参加者達が撮影に参加することで、自主映画を完成させるアートプロジェクトです。ウエブサイト http://zenjido.jidokan.net/

◆キワマリ荘(SpaceAFA)「占部史人展『浮寝の旅』」2012年3月3日(土)〜4月8日(日) 12:00-18:00(*土日のみオープン) 入場無料 茨城県水戸市北見町5-16*この展覧会は同時期、水戸芸術館現代美術ギャラリーでも同時開催されています。SpaceAFAブログ http://spaceafa.exblog.jp/

2012年2月28日火曜日

芸術鑑賞論Bの授業を終えて(4)

こんにちは。先週から、芸術鑑賞論(B)の受講生の方々の三学期のまとめのレポートを公開させて頂いております。
三学期は、美術鑑賞の行為中、鑑賞者にとって鑑賞が“深まった”と判断できるものは何なのか。また、それはどのような鑑賞実践を行い、どう調査すればよいのか。こうした問題点を踏まえ、受講生のみなさん各自に実践して頂きました。

 今日は、鑑賞の“深まり”が、“情動を引き起こすこと”と考えておられる受講生の方の実践発表と考察です。情動は、鑑賞者の個人的な好き嫌いの感情が起こる、または、揺れ動くことを指すと思われます。以下、基本的に発表者の方のレジュメを基にして公開しますが、*マークは私(和田)が補足説明を加えた箇所です。

■鑑賞実践の目的
意図的に情動を引き起こすことで、より深い美術鑑賞の実践を目指す。

■実践の方法
*先ず、諸外国の風景がポストカードサイズになった写真の複製を数枚、鑑賞者達の前に差し出す。
1.鑑賞者が自分の好きなカードを選択する。・・・「好き/嫌い」という“情動”の発動

2.選んだ理由を説明する。・・・「○○が△△(だから好き)」という“記述・分析・解釈”
*記述(写真の中にあるものを客観的に指摘すること)・分析(写真の中にあらわれたもの同士の位置関係や形・線・色彩などの造形要素について分析すること)・解釈(作品の意味について自分の考えを述べること)

3.情報カードを受け取る。*風景に関する情報(情報を用いるかどうかは鑑賞者が選択できる)

4.選んだカード(今回は風景写真)の宣伝文句を考える。・・・作品の価値を定める“判断”
*判断(写真の価値について自分の判断を下すこと)

■実践結果
1.選択カード「アユタヤ(タイ)」選択理由「もう一回東南アジア旅行したいな」宣伝文句「ここに400年の歴史アユタヤ王国が」
2.選択カード「ヴャラナシ(インド)選択理由「ごちゃごちゃしてる。色がたくさんある。鉛筆みたいな建物」宣伝文句「インドのヒーリングスポット:反省しよう、この場所で」
3.選択カード「オックスホード(イギリス)」選択理由「色がきれいだから。イギリスに行きたいから」宣伝文句「大学とは思えない素敵な街並み(建築)」
4.選択カード「バイブリー(イギリス)」選択理由「色あいが好き。手前の花がかわいい」宣伝文句「レンガづくりの小さな屋根のおうち〜ウイリアム・モリスも愛したカントリーサイド〜

■結果の考察
・4人中3人が、選択理由に客観的な造形要素ではなく、個人的な嗜好や経験を結びつけて挙げていたことが特徴的であった。従来の理論から言えば、美術鑑賞において個人的な嗜好は極力省くことが望ましいのかもしれない。だが、活動の手立てを工夫することによって、鑑賞者の嗜好・感情・経験のみによるのではなく、しかしそれらを無にもしない鑑賞が可能になるということがわかった。アカデミック(*学術的)な理論と、プラクテイカル(*実践的)な手段を統合することが重要なのだと思う。
・宣伝文句を考える活動は、かなり情報に左右される。最初に受けた印象をもっと活かすために、情報の量を調節する、段階的に情報を小出しにするなどの工夫が必要かもしれない。
・今後は、情報の発動の有無が鑑賞の深まりにおいて具体的にどう影響するのか、そして今回の実践方法が他のジャンルの作品でも有効であるかを検証してゆきたい。

2012年2月23日木曜日

一年間の芸術鑑賞論(B)を終えて(3)

こんにちは。
芸術鑑賞論(B)の授業参加者のみなさんの三学期のまとめを公開しています。今日は3回目です。
今日の発表者の方は養護学校に勤務しておられる方です。知的障害を持つお子さんの美術教育の在り方について研究をされています。
この方の芸術鑑賞論(B)の授業内の鑑賞実践も、障害のある方の絵を基にして行われました。この実践内容については、このブログの2012年1月31日火曜日「今日の芸術鑑賞論(B)」に掲載しておりますのでご参考にご覧下さい。

 以下、この発表者の方のレジュメから一部省略、補足を加えて公開します。

鑑賞のミニ実践は、スライドを使ってファシリテーター(進行役)である私(発表者)と鑑賞者四名(受講者)によって対話式鑑賞法で行った。ホワイトボードに簡単に、実践のための指標を記し、発言内容を進行役が記入していく方式をとった。そのため、鑑賞者が鑑賞行為に対して身構える形となってしまったこと、一人一人に答えさせるよう義務付けした形となってしまったことは反省点である。この鑑賞スタイルはワークシート(紙媒体による記述方式)形式に近い。そのため、ワークシート(紙媒体)に掲載された作品図版上に吹き出しなどを描き、直に鑑賞者へ渡して意見を書いてもらい、それを基に鑑賞者同士がテーブルの上で意見交換をとれるような形にした方が、積極的な対話を促しやすいように思う。また、記述式をとらない場合は、身体的な動作を実演してもらうパフォーマンスを取り入れた鑑賞法が考えられる。
また、今回のもう一つの反省点は情報投入の点である。今回提示した情報は作者の障害のことにしか触れておらず、他の作品や作者にまつわるエピソードに触れることはなかった。情報投入は鑑賞において、進行役が意図して組み込める最大の武器であり、鑑賞者が新たな視点で作品を鑑賞するきっかけづくりになる。しかしながら、この情報投入の使い方を間違えると、作品の見方が偏ったものとなるので要注意である。今回の場合、情報が少なすぎてしまい、筆者が障害を持っていたという観点で鑑賞が終わってしまったように思う。作者がどうやってこの絵を描いているのか、作品と比較しながら再度観察を繰り返すことが望ましいであろう。

2012年2月22日水曜日

一年間の芸術鑑賞論(B)を終えて(2)

こんにちは。芸術鑑賞論Bが1年間を通し、修了しました。
 三学期の授業の振り返りについて、受講生の方達の発表を公開させて頂いております。
 今日は、鑑賞が深まる要因には、作品を鑑賞した「時間」に関係がある、と考えられていた方の実践結果の反省です。以下、主要な内容を発表者の方のレジュメから抜粋しご紹介したいと思います。

■鑑賞作品 曽谷朝絵 【Bathtub(2007年、油彩キャンバス)】

■実践形態
・ ファシリテーター(*進行役)は、グループに入り一鑑賞者として作品を鑑賞する。・ファシリテーターによる鑑賞の誘導(特定の主題や目的に到達されるための発言等)は行わず、会話形式で作品について自由に発言を行う・誘導のない、会話による鑑賞によっても、鑑賞の深まりが果たされることを検証する。

■結果と反省
●造形要素の鑑賞や解釈・判断・分析などについて
・ 作品の色あいや描き方等、造形要素についての発言が会話の全体を通して多くみられる。→作品の特徴となる部分であるため、多くの発言が出たと推察される。しかし、そこからなぜ作者がそのような表現をしたのか、受ける印象にはどのようなものがあるのかなど、解釈や判断行為に発言をつなげていく必要があった。
・ 会話後半部でも、再び観察や連想に関する話題が登場する。→時間が経過するごとに、一つの事柄(作品要素)に関する発言は増えていく。そこからさらに連想行為を広げていく傾向がある。
・ 解釈、判断行為に及ぶ発言は出てこなかった。→発言が作品の造形要素に関する連想・分析から発せられることが多かった。そこから作品の主題や表現性に関する解釈や判断に至るためには、ファシリテーターによる誘導(情報投入)が必要。
・ 作品の要素について、発言の多くが連想行為からなされたものだった。→ゴールや筋道が決まっていない鑑賞では、鑑賞者自身のこれ迄の経験や記憶からその作品との関連性を探そうとする(その傾向がより顕著に表れる)。
・ 鑑賞時間の中盤(7分ごろ)から徐々に分析行為に関する発言が増えるようになる。→連想行為の蓄積から、なぜそれが描かれたのか、そのような描かれ方をしているのかについて考察が行われる。

●ファシリテート(*司会進行)について
・ 作品に注目させ、関心を持たせ、考察と発言を促すための手だてが必要→単なる会話にならないように・・・
・ パラフレーズ(*進行役が鑑賞者の意見を言い換えること)を行わずに会話を自然に続けていく方法を考える必要。→会話の中で必要な情報を適宜注入できるように、ファシリテーターは作品に関する知識と経験(記憶)が豊富なことが臨まれる。
・会話をスムーズにつなぐための雰囲気作りとして、作品をスクリーンに投影するのではなく、複製画(コピー)などを配布し作品を囲んで会話ができるようにすべきだった。

2012年2月21日火曜日

1年間の芸術鑑賞論Bを終えて(1)。

こんにちは。今日は、ついに芸術鑑賞論Bが1年間を通し、終わりました。1年間、対話型鑑賞(1学期)、美術批評教育と比較鑑賞(2学期)、鑑賞の深まりに関する実践とリサーチ(3学期)と、様々な鑑賞教育について検討し、新しい在り方について模索してきました。また、様々な鑑賞教育を学習したからといって、内容が散逸したわけでもなく、どのタイミングで美術作品の情報を投入するのか、どうすれば鑑賞者の考え方・概念が変化するのか、また、それはどういう意味なのか、という主要課題があって展開されていったので、まとまりのあるものとなりました。
 今日から、6回に分け、三学期の授業を終えた受講生の方6人の振り返りの内容の一部を公開して行きたいと思います。
 ちなみに、この授業で主題となった、鑑賞行為中の概念変化とは、鑑賞者の概念・見方・考え方が鑑賞行為の途中で変化することです。三学期の授業ではいかにして、この概念の変化を引き起こすことができるのか、その概念とは何なのか、という問題点が横たわっていました。また、その概念の変化を起こすためには、いつ、どのようなタイミングで、どんな作品情報を投入し、どのようなやり方で投入すれば良いのか、という問題も一方ではありました。

 今日は、作品を多く見せることが鑑賞の深まりに繋がると考えた方のものを紹介したいと思います。

 【反省点/改善点】始めの想定では、ある作家の作品を多く見せることで、情報投入を行わなくても、概念変化をおこし鑑賞を深めることができるのではないかと考え、導入部分や途中での情報投入を行わなかった。
 そのため、今回の鑑賞では鑑賞者側はあまり作品について深く考えることが出来なかったように思えた。また連続して作品を観せるということが、上手くいかずそれぞれ単体での鑑賞になってしまっていた様な感じを進行役を務めながら感じた。そのため連続して作品を何枚も鑑賞することの有効性はあまりなかったように感じてしまった。
 しかし、実践の結果を見ると、2、3作品目と多様な意見が出たことが解り、また4作品では急に主題について深まっていく様子が見てとれる。「馬の鼻筋の白」をきっかけとして、3作品目の雪景色の写真の白いイメージとリンクして、1、2作品目も引き合いに出し、白という言葉をキーワードにして鑑賞を進めていた部分は、作品を数多く見せ、鑑賞を深めることに成功した部分といっていいと感じる。
 今回のような鑑賞を、より深めていくためには、作品のタイトルやキーワード等の情報の投入を行った方が鑑賞はより深まったのではないかと考える。また前回の講義でも指摘されたように、順々に作品を鑑賞していくだけではなく、作品全部を観ている状態で鑑賞したり、鑑賞者に次に鑑賞したい作品を選ばせるなどして、作品を鑑賞者へどのように観せるかという工夫が必要であると感じた。
 今回は、単純に作品を鑑賞する数を増やすことにより鑑賞を深めようという試みであったが、単純に鑑賞する作品の数を増やすことだけでは、主題の判断や概念変化を起こすような大きな深まりを生むことは難しい。情報の投入や、鑑賞作品の見せ方を工夫することによって深まりは増すのではないかと考える。

2012年2月16日木曜日

こんにちは。
 昨日、水曜日午後6時から8時半まで教育研究科(大学院修士課程)の中で、退官される先生や修了される学生さんのためのお別れ会がありました。芸術科教育コースからは、お一人の方が修了されました。現代アートの学校教育における意義を研究されてきた方です。理論面だけでなく美術館での実践面を視野に入れ、初等教育を対象にした研究を続けてこられました。修士論文も、非常に充実した内容となりました。一見、多くの方が取りかかっているような研究テーマに見えて、実は、あまり扱われたことがないテーマです。貴重なテーマを持った方ですので、修了後の今後のご活躍が楽しみです。

 さて、火曜日の芸術科教育研究Bでは、受講生のみなさんが修士論文のための構想発表をし、他の受講生の方の意見を取り入れながら、各自の研究内容の深化を進めてきました。今週は、お二人の院生の方の発表がありましたが、今日はそのうちのお一人の発表をご紹介したいと思います。来週にも、芸術科教育コースでは、修士論文の構想や論文構成に関する中間発表会がありますので、レジュメの内容もかなり具体的なものとなってきたようです。以下にその一部を掲載します。

(仮題)「開発途上国における美術教育開発はどうあるべきか
—モルデイブ共和国での実践を事例としたモデル構築のための考察—」

研究の背景と目的
(1)目的
 1.開発途上国における美術教育開発の実態を明らかにし、その背景要因について考察する。
 2.自身のアクションリサーチとしての実践を、内発的発展論の視点から分析し、美術教育開発モデルを構築する。
(2)背景
途上国の教育開発において、識字教育や理数科教育などと比較すると、美術教育の分野はこれまで積極的な議論がなされないできた。確かに、今まさに貧困に喘いでいる国にとって、美術教育は優先すべき事項ではないのかもしれない。しかしそれは、美術教育は俗福な国しか享受することが出来ないという、皮肉な現実を暗示するものである。
 本研究では、美術教育も開発途上国の子どもたちの健やかな成長に必要不可欠なものであると捉え、かつ途上国という特色を考慮した上で、その発展を目指すにはどのような視点が必要であるのかを考えたい。

*ここからは私(和田)の文です。
 この方は実際にNGOの活動の一貫として、モルデイブの現地で、図画工作教育を教えてきた経験があります。その実体験を生かしながら、開発途上国における美術教育の在り方について、この研究を通し、模索されていくそうです。非常に、希少価値のある研究テーマですので、今後の展開が楽しみです。

2012年2月14日火曜日

こんにちは。今週、教育研究科は、2月15日(水)夕方6時から「退職・転出教員及び修了生歓送会」があります。今年も、もう修了の時期に入りました。二年間はとても早いです。

 さて今日は、先ほど、芸術鑑賞論Bの授業が終わったばかりです。三学期は、“鑑賞の深まり”とは何かを受講生のみなさんが考え、実際に鑑賞の実践を行って頂き、その結果を自らリサーチしてもらっています。

 今日は、お一人の方に発表をして頂きました。以下、一年間の授業の展開上、初めてこの内容を見る方には分からない点が多いと思いますので、私(*和田)が説明を記し、ご紹介したいと思います。

●“鑑賞の深まり”をどう考えるか。
○鑑賞者の方の考え方の変化(概念変化)をより引き起こしていくことが“鑑賞を深める”とする。考え方の変化(概念変化)とは、美術作品の中に描かれた物への言及に留まらず、個人的な経験に照らし合わせた作品の解釈を加えつつ、人類全体に共通する普遍的なテーマの解釈に向かっていくことを指すと思われます。
●では、“鑑賞を深める”ためにはどのようにすればいいのか。
○ 鑑賞者が鑑賞を深めてゆくためには、個人的な経験から語る言葉に加え、作品の背景となる情報を知っていくことが必要です。「情報が自分の考えを裏付ける要素となり、より“分析”“解釈”“判断”の要素が増える」(*発表者のレジュメより)よって、対話中に司会進行役が、作品の情報をいつ与えるのかという時間の問題に大きく関係してきます。事中に与えられる作品の情報とは、主に、作品のタイトル、作者名、作者による作品の説明、など美術館のキャプション(*作品紹介のための情報)レベルに留めるもののようです。よって、事前には作品情報が全くないまま、作品のみを前にして、鑑賞がスタートすることになります。

*以下、実践内容について発表者の方のレジュメを基にして、補足を加えます。
□実践(時間20〜25分)
● 作品名:「Exactitudes」(Ari Versluis and Ellie Uyttenbroek)
*公開される作品は展覧会冊子の図版、及びカラー印刷された作品の写真。
● 鑑賞人数:複数(二人以上)
*鑑賞者の方々は、作品の図版を中心にテーブルを囲み、椅子に座る。
● 鑑賞形態:鑑賞者同士による会話形式(基本ファシリテーター〈*進行役を指す〉は不在です)
*提案者による、ある程度の介入あり。例えば、この作品を見てどう思いますか?などである。積極的な介入はしない。
● 鑑賞方法:1.鑑賞者に鑑賞題材となる作品を渡し、その作品について自由に会話をしてもらう。2.鑑賞の中盤で、作品に関する「情報」をファシリテーターが投入します。(計3回)*情報投入のタイミングは、時間によるものとする。
*対話中に提供される情報は、提案者の声かけにより、手で持ったA4サイズの紙に印字された文字を公開することで与えられる。これが対話中、三度繰り返される。この際、情報に関する説明が加えられる。

□ 投入“情報”の順序・内容(どの要素の情報を投入するのか)
1.「この作品は『Exactitudes』で、和訳は“正確さ・精密度”である。」(〈主題〉?の情報投入)
2.「ここで分類されている人々は作者の『“〜ぽく”見える人』という視点(=主観)で分けられているものである。」(〈表現生〉の情報投入)
3.「この作品が展示されていた企画展名は「これも自分と認めざるを得ない」展である。」(〈主題〉の情報投入)

*実際の本人の感想
 ●対話中に作品の情報を投入すると、鑑賞者の自由な対話を閉ざすのではないかという心配があった。●実際に情報を投入するタイミングが、当初、予定をたてていた、時間の経過ではなく、対話の流れを配慮し、投入せざるをえなくなった。また、情報公開しようとした内容が、先に鑑賞者により語られることもあり、予想した展開を大きく変えるような場面があった。

2012年2月9日木曜日

こんにちは。今日のつくばは晴れです。少し温かい日差しが刺すようになりました。筑波大学の教育研究科芸術科教育コースの授業では、23年度、新しい試みとして、対話型鑑賞の更なる可能性や、美術教育への質的研究の可能性などを検討してきました。

■昨日の授業について
 昨日の芸術科教育実践演習では、3月末の新潟大学で開催される美術科教育学会の研究発表の準備のため、パワーポイント作りが始まりました。研究の題目は「他教科教員志望学生が美術教育に抱く問題意識の質的考察」です。美術教科以外の教員志望の学生さん達が、美術教科に対して、どういう問題意識を持っているのかを調査し、分析した研究です。芸術科教育コースの三人の院生の方々の共同発表となります。院生さん達にとって、初めての学会発表となりますので、先生の助言・示唆を受けながら、準備を進めています。
 一年間、この授業では、美術教育への質的研究の実用化と可能性について検討を続けてきました。質的研究の意味を簡潔に述べますと、数や量などの数値の統計を分析する量的研究では、分析しきれないものを対象とする研究分野、といえます。非常に曖昧な言い方で申し訳ないのですが、実際、質的研究の専門分野の方でも、一言で質的研究の意味を述べることは困難とされているようです。

 ■パワーポイント作り
 現在、学会が作成する概要集へ集録するための研究概要が出来上がっており、この内容を基に、パワーポイントの研究目的や背景・研究方法・研究結果などを共同で作成することになりました。実際の口頭発表は二十分間発表、五分間質疑応答となります。実際にパワーポイントを作ってみると、様々な課題点が見つかりました。1)調査結果を分析したモデル図の字が、今一、離れた所からは見にくい点。(レジュメにして、配布することになりました)2)文章をパワーポイントへ移行した際、口頭発表されるため、ある程度、文章を口頭化しておかないと違和感がある点。3)質疑される内容を、ある程度、想定してパワーポイントを作成する必要がある点。4)全ての調査結果と分析内容を公開することは時間制限上、不可能なため、代表となる例を選び、公開しなければならない点。などです。
 二月中には、一度、学内において事前の発表練習がありますので、今、集中して準備を進めています。

2012年2月8日水曜日

こんにちは。今日のつくばは曇りです。雨が降りそうで、降らないといったところでしょうか。気温は少し高めで、寒くはないです。

お知らせです。
筑波大学ではつくば市の子供達の能力を調査してきましたが、その結果の報告会が3月3日(土)本大学にて開催されます。この報告会の中で、芸術科教育コースの石崎和宏先生がつくば市の小学校の子供達の図画工作に関係する能力を調査した結果を「芸術的感性の発達」として発表されます。参加費無料・事前申し込み不要ですので、お気軽にご参加下さい。以下、日時です。

筑波大学プレ戦略イニシアテイブ
「未来の子ども育ち研究支援センターの創設」シンポジウム・調査報告会

日時■2012年3月3日(土)13:00〜17:20
場所■筑波大学体育芸術学群棟5階 5C506教室
12:00〜受付
13:00〜13:10 開会の辞ならびに本プロジェクトの概要
13:10〜15:10 シンポジウム
15:30〜17:20 平成23年度調査報告会
17:20 閉会の辞


■ 昨日の芸術教育研究B
 さて、今日は芸術教育研究Bという、修士論文の研究指導を中心にした授業の内容について触れたいと思います。昨日は芸術支援のコース所属の院生(修士課程1学年)の方が修士論文の構想・仮の章立てを発表されました。
 以下、レジュメがありますのでそれを基に研究目的を掲載したいと思います。

■仮題「美術科教師の継続的な学びについての考察—高等学校教師の取り組みを中心にー」

■研究の目的 美術科教育研究における教師を中心とした考察の重要性、教師の学びと内省の必要性を述べること。
・ 美術科教師のあり様、授業開発と教材研究に取り組む意識、姿勢、実践を(教師の自発的、継続的な学びと内省)という視点から明らかにする。
・ 「継続的な学びと成長を遂げる美術科教師像」の提案とその重要性、仮題の提示を行う

*ここからは私(和田)のまとめです
 発表者の方は、佐藤学さん『教師というアポリア』(1997年)、鹿毛雅治さん「教師もやる気を支えるもの」『成長する教師』(1998年)集録を持参され、この両著書を基に、教師自らが、教師であるとはどういうことなのか、その存在を常に問い直すことで、教師が反省的な姿勢を持ち、そこから成長を続ける教師のあるべき姿を模索されています。この教師像が、今回、高等学校の美術教師に求められているわけです。
 この研究は、論理的に展開してゆくだけでなく、実際に何人かの高校の美術教師の方にインタビューをし、授業開発の方法とその反省方法などを分析し、具体的な教師像のモデルの在り方について模索されるそうです。そのリサーチ結果の分析をふまえて、最終的に美術科教師の「学び」とは何か、「反省」とは何かを検討・定義されるそうです。
 非常に熱心に発表されていたので、今後の展開が楽しみです。

2012年2月7日火曜日

対話型鑑賞の新しい可能性の模索

こんにちは。今日の筑波は、朝から小雨が降ったり止んだりを繰り返しています。先程、芸術鑑賞論B(通年)の授業が終わったばかりです。
 この授業は、三学期、美術館・ギャラリーなどで鑑賞方法として主流となっている対話型鑑賞の新たな可能性について模索している所です。受講生の方々により“鑑賞を深める”ということはどういうことなのかを考えて頂き、それを実演するための鑑賞の実践もしてもらいます。
 今日は、芸術支援学(*筑波大学芸術系にあり、芸術支援の在り方について模索する。あるいは、その歴史を調査することで学問としての体系を整えるコース)の院生さんのお二人が“鑑賞を深める”ためのオリジナルの対話型鑑賞法を提案し、実演されました。お一人、二十分程度の実演の時間があり、その後、他の受講生の方達により感想・改善案が出され、デイスカッションがされました。

○先ず、お一人の方から。
■“鑑賞の深まり”についてどう考えるか
 「鑑賞する作品の数を増やすことによって、作品への理解が深まるのではないか」
■ 作品:松本美枝子(まつもと・みえこ/写真家)写真集『生きる』から写真を四枚。
■ 手順・四枚の写真を一枚ごとに、約2分半ずつかけてプロジェクターにより投影し、進行役が鑑賞者の発言を引き出していく。事前・事中・事後に作品に関する積極的な情報投入はなく、何が見えますかという問いを繰り返しながら、一人一人の鑑賞者に問いかけてゆく。四枚の写真を見終わった直後、これら四枚の写真に共通するものは何ですか、という問いが投げかけられた。鑑賞者側からは、白い色を多く使っていた、きちんと撮影しないで自然体で写していたなどの意見が出された。
■ 提案者の意図 四枚の作品の共通点を理解することで、作者がテーマとした『生きる』ということの意味を作品から読み取ってもらいたい。
■鑑賞者側の感想
 ●最後に四枚の写真を総括して、鑑賞を深めるなら、最後に四枚が同時に提示されることで鑑賞者が作品全体を見渡せる方が良いという案が出た。
● 事前・事中に、何らかの説明や情報投入がないまま、四枚の写真を連続して見ることになるため、鑑賞者達は、“この鑑賞の意図は何なのか?”という疑問が起こり、進行役の意図を探るような心理がはたらく傾向にあった。


○次の方です。
■“鑑賞の深まり”についてどう考えるか
 「鑑賞する作品の時間を増やすことによって、作品への理解が深まるのではいか」
■ 作品 曽谷朝絵(そや・あきえ/画家)『バスタブ』
■ 作品『バスタブ』をプロジェクターにより投影。進行役が積極的に仕切るものではなく、鑑賞者同士が自由に対話を進める。そのため、対話型鑑賞ではなく、会話型鑑賞と命名されている。この中で、進行役は仕切るのではなく、鑑賞者の一人として仲間に加わる。だが、当然、初見の鑑賞者達と比べて、作品の背景は熟知しており、画集も持参しているため、ある程度、会話の流れの中で、“調整”“整理”する役割は、果たすことになる。
■ 提案者の意図 対話型鑑賞には進行役による策意的な介入が感じられることから、鑑賞者同士の自由な会話を方法として選んだ。
■ 鑑賞者側の感想
●自由に話しを進める会話型鑑賞なら、プロジェクターを用いた投影よりも、机の上に画集などの冊子を広げた方が、指差しやすく気軽に会話ができるという提案がでた。

 今日は、実演後、非常に有意義な意見交換がでました。

2012年2月6日月曜日

3月の学会発表へ向けての試み

こんにちは。今日の筑波は、朝から雨です。
 学生時代(*和田)、筑波大学の敷地内の寮で過ごしましたが、雨が降ると外出が大変で苦労した思い出があります。なぜかといいますと、つくばは研究施設が多いため、学園都市の敷地のほとんどが広大な研究機関の所有地になっています。そのため、目的地へ向かうおうとすると立ち入り禁止区域が多いため、遠回りせざるをえず、移動距離が非常に長くなります。車を持ってないと不便で、自転車だと雨が降ると外出が億劫になってしまいます。ですが、初夏や秋になると、この長い道なりに埋められたポプラ並木の緑の葉の色や紅葉がとてもきれいで壮観なので、いい所もあり難点もありといった所です。

 今日は、3月末の美術科教育学会の発表へ向け、準備を進めている芸術科教育コースの院生(修士課程)の三人の方の合同研究の内容について触れたと思います。まだ、正式に3月の美術教育学会の発表の詳細がホームページなどに公示されておりませんので、詳しい言及は避けたいと思います。ここでは、学会発表の予告編のようなものとみて頂ければ幸いです。

 この学会発表までのいきさつは、水曜日(通年)の芸術科教育実践演習にあります。この授業では西條剛央さん『ライブ講義 質的研究とは何か』を基にして新しい美術教育の研究方法を模索してきました。二学期・三学期は、いよいよこの研究方法を用いた実践となります。
 
 水曜日の授業では、二学期、受講生のみなさんと共に、美術教育の今後の課題・問題点は何か?ということを討論していたのですが、話し合って行くうちに、様々な問題点がでました。そこで、それらの問題点を一つ一つ統一・整理してゆくことで、最終的に一つの問題点を導き出しました。それは、美術教育以外の他の学校教育コースの方々は、美術教育のことをどのように考えているのだろうか?というものです。この問題点は、今まで、あまり触れられたことがありませんでした。
 さて、この問題点を解決するための指標として、西條さん『ライブ講義 質的研究とは何か』から、研究方法を参考にすることにしました。この著書『質的研究とは何か』では、作者の西條さんが実際に院生さんの授業で行った研究調査の実習内容が講義形式で記されております。教育実習を終えた学生さんの方のレポートを基にして、教育実習生の方々がどのような葛藤や問題点をかかえているのかを調査する研究の経過が記されております。そして、受講生のみなさんが、実際に教育実習生の方々にインタビューし、その内容を分析し、そこから導き出された結果を基に図を制作し、問題点を浮き彫りにしょうと試行錯誤しています。
 芸術科教育コースの授業では、一学期、この西條さんの著書の研究方法を検討してきました。三学期に入り、この西條さんの著書の調査方法を基に、美術教育の専門外の教育関係者の方がどのように美術教育のことを考えているのか調査することになりました。三人の受講生の方々が、それぞれ、他の教育研究科のコースの院生さん達の所にインタビューへ行き、美術教育のイメージ・印象・思い出などをインタビューしました。次に、そのインタビューした録音内容を文章で書き起こし、どういう考え方が現われているのか各自分析しました。更に、その考え方を図でまとめてあらわし、今後の美術教育における問題点が示唆できるないのではないか、検証しました。
 特に大変だった所は、三人のインタビュー結果から導き出されたものが、当然、異なりますので、それを統合することだったように思えます。もうすぐ、正式に3月の美術教育学会の発表内容がホームページなどで公示されると思いますので、その際、この調査経過の詳細も公開したいと思います。

2012年2月3日金曜日

外国人教員特別留学生さんの集中講義ー日本文化の「和菓子」と「寄せ書き」

こんにちは。昨日は、諸事情から更新できませんでした。もうしわけないです。美術教育の授業内容の説明は長く続きそうですので、来週月曜から始めたいと思います。

先程、教育研究科に短期留学された外国人教員特別留学生さん達の集中講義を終えました。今日は、この講義について触れたいと思います。外国人教員特別留学とは、諸外国から来られた学校・教育関係の仕事に就かれた方々が、筑波大学大学院教育研究科に短期に留学される制度です。入学後は、各専門コースに別れ、日本の教育制度や様子など専門的な講義を受けて学びつつ、各自の研究論文を完成します。また、共通して日本語を学習する講義や、日本文化の理解を深める授業もあります。今日の集中講義は、その一貫とみてよいと思います。

 私(和田)は、毎年、この留学生さんの集中講義は何をしようか悩むのですが、私の職業柄、美術に関係するものを選ぶようにしています。昨年は、日本の“掛け軸”について授業をすることにしました。私の祖父が水墨画家でしたので、その絵を実際に持っていき、子どもの時の思い出を含め、詳しい背景を話しつつ授業を行いました。英語の紹介映像を見ながら、掛け軸の保存の仕方、巻き方、季節や行事に応じて出し入れするなど、西洋の絵画とは全く異なる性質について、みんなで学びました。

 今年は、日本の美に関係するものとして、“和菓子”と、卒業シーズンには欠かせない“寄せ書き”をテーマにして授業を行いました。
 全員で八人(一人欠席)参加しました。韓国・中国・インドネシア・タイ・ガボン・メキシコと様々な国から来られ、学校の先生だけではなく、政府の教育機関に所属されている方もおります。今回は、3.11以降、日本の観光客の減少や、留学生さんも激減していることへ配慮し、みなさんが母国へ戻った後、少しでも日本文化の良さを伝えて頂けるような授業をすることにしました。

○日本の“和菓子”の色と形について。
 日本の和菓子は、味だけではなくその見た目の美しさ、特に形(form)と色(color)も重要になってきます。特に、四季を象徴した形や色が求められてきます。例えば、春→桜→花弁を広げた形・ピンクの色彩などです。英語の紹介映像を見て頂いた後、実際の和菓子を基に、四季の変化がどう形と色に現われているのか説明させて頂きました。その後、食して頂きました。お菓子というと、カラフルでボリュームがあるなど娯楽的な要素が多いものですが、それに比べると和菓子は厳格でやや質素な感じがするせいか、反応に困られているようでした。味が少し甘すぎるかな、と心配していたのですが、味に関してはみなさん、おいしく頂けているようでした。


○日本の“寄せ書き”の習慣について。
 日本人が当たり前に思っていて、外国人が全く知らないものとして、別れ際に色紙にメッセージを書く“寄せ書き”があります。特に、学校では、先生や卒業時の友達との別れの際、書くことが多いです。一人一人の違いを出すように、カラフルな色ペンを用いることも独特の習慣です。日本の学校教育の文化を知ってもらうことと、丁度、留学生のみなさんが来月卒業しそれぞれの母国に戻られることになりますので、外国人留学生のみなさんに互いに書いてもらうことにしました。私が中学校の美術教師だった時、生徒達から頂いたものを見てもらい、寄せ書きの説明をしました。みなさん、寄せ書きは今まで知らなかったようですが、うまく互いの色紙を交換し完成することができました。休んでいる方の色紙も今日みんなでメッセージを描き完成させました。描いた後、色紙を持ち、みんなで写真を撮る、などいい思い出になりました。

 この授業を通じて、新しい発見があったのですが、日本人はあまり深く接してない人であっても、形式的にお別れのメッセージを書く習慣があるということです。これが前提にならないと、“全ての人にもれなくメッセージを書いてもらう”という、“寄せ書き”の習慣は成り立たないものなんだな、と気づきました。別れを惜しむだけでしたら、仲の良い人同士で交換すればよいだけでしょうから。。。。

 来週から再び、今週の水曜日の続きから始めたいと思いますので、よろしくお願いします。

2012年2月1日水曜日

授業・芸術科教育実践演習(水曜)について

こんにちは。

 今日は先程、■芸術科教育実践演習(通年 水曜日三限)の授業が終わったばかりです。

 この授業では、現在、受講生のみなさんが共同で、3月末に新潟大学で開催される美術科教育学会への発表へ向け、その準備が進められています。研究テーマは、美術教科以外の他教科の教員へ志願されている学生さん達が、自分の個人経験から美術教科についてどのような印象を持っているのかを調査し、その結果を分析し、今後の美術教育の在り方についての新しい考察の視点を提供することにあります。

 芸術科教育コースに在籍中の三人の院生の方が、筑波大学の教育研究科の院生の方々へインタビューし、その結果をみんなで分析することで、一つのモデル図を作り、美術教育関係者へ向けて、何らかの問題解決への指針を提供するものです。現在、学会発表へ向けて、最終的なまとめと共に概要集に掲載するための概要を作成しています。

 この研究の基となったものは、早稲田大学で教員を務める、西條剛央さんの『ライブ講義 質的研究とは何か』(新曜社)です。この著書の内容を基に、美術教育の研究方法としての新しい視点とは何か一学期から考察を続けてきました。そして、二学期からいよいよ、“質的研究”を活用した研究が実践されてきたわけです。

 明日は、この西條さんの著書の質的研究について触れたいと思います。

2012年1月31日火曜日

今日の芸術鑑賞論(B)

こんにちは。今日は先程、芸術鑑賞論B(通年)の授業が終わったばかりです。
 三学期の授業では“鑑賞の深まり”、つまり、鑑賞を深めてゆくことはどういうことなのか、受講生のみなさん、お一人お一人が考え、実際に鑑賞を深めるための鑑賞の実践を行ってもらっています。その際、進行役となり、他の受講生の方々を対象として、対話型の鑑賞活動を展開して頂きます。
 今日はお二人の方に発表して頂きました。

● 先ず、お一人目の方は“芸術を深める”ということを、嗅覚・触覚・味覚などの五感を通じて体験してゆく行為と定めています。芸術作品の味覚、などというと馴染みにくいかもしれませんが、実際、文部省の学習指導要領の中では、美術の授業において、“鑑賞”は、作品から“良さを味わう”という言い回しが使われています。この方は、特別支援の生徒さんを対象とした鑑賞教育の在り方を模索されている方なので、五感を使った感覚的な鑑賞方法は、論理的な道筋を立てた言語活動がしにくい生徒さんにとっても、有効な手段といえるでしょう。

実践
1)先ず、スライドに映し出された子供が描いたような風景画を見て、鑑賞者は思いついた擬音語を述べる。ガタガタ、キラキラ、ゴツゴツなど。
2)次に、先程、述べた擬音語が、絵の中のどの部分を見たのかを述べる。例えば、“フワフワ”は“飛行機を見て”など。
3)次に、なぜ、その絵の部分を見て、そういう擬音語で言ったのか、理由を述べる。
例えば、飛行機を見て、“フワフワ”と述べた理由は、“飛行機が浮いているような感じがした”からだと答えます。
4)ここで、司会者の方は、鑑賞の対象となった絵の作者を発表します(情報投入)。一見、子供が描いた風景画のように見えますが、実は、すでに他界された筋ジストロフイーの成人男性の方が描いた絵だということが実際の写真と共に紹介されます。
5)実際の作者を知ったうえで、この絵を見た全体の印象について述べてもらいます。
 今までの印象がくつがえされたことにより、新しい印象を述べることが期待された授業だと言えます。





● では、もう一人の方です。この方は、“鑑賞を深める”ということを、“情動”つまり、鑑賞者が好き嫌いなどの個人的な意思決定を強く引き起こした際に心が揺れ動くことと定義しました。

実践
1) 諸外国の観光名所の写真が掲載されたポストカードを数枚だし、“もらえますので、この中からカードを一枚選んで下さい。”と言います。
*受講生の皆さんはカードを一枚一枚選びました。
2)次に、その自分の選んだカードの写真の良い所を他の人に宣伝するような感じで、紙に短文で記してもらいます。その例として、新書が販売された際の表紙に巻かれた帯のキャッチコピーのようなものだと説明します。
3)次に、各自、自分が書いたキャッチコピーをみなさんに発表してゆきます。進行役の方は、なぜそう思ったのか、その都度、発表者に聞いていきます。

この三段階の実践には以下のような理論があります。
1) 作品の選択 好き/嫌いという情動の発動
2) 選択理由・作品の特徴の言語化 「○○が△△(だから好き)」という記述・分析・解釈
3) 宣伝文句 作品の価値を定める判断(解釈も含まれる?)
 
 来週は、また別の方が発表します。

2012年1月30日月曜日

こんにちは。つくばには先週降った雪がまだ日陰に残っています。寒い一日となりました。

 余談ですが、筑波は“パンのまち”と呼ばれるくらい、非常にパン屋が多いです。それだけでなく、研究学園だけに、パン職人の方も研究者肌が強いのか、飾りっ気がなく、小麦の本質に迫ったようなパンが多いです。ネットで見て頂けると分かりますが、町の中に隠れて店が点在しており、全ての店を見つけるのは容易ではありません。お一人で全て運営されている店も少なくなく、隠れた名店と呼ばれるものが多いです。すぐにパンの在庫が無くなり、お昼頃に閉店する店もあります。本当に、他では出会えないような、本格的なパン屋さんが多いので、是非一度、つくばに訪れてみて下さい。職人気質の高さに驚きますよ。

 さて、今日は、火曜日の美術科教育研究Bの授業をご紹介したいと思います。この授業は、大学院修士課程に在籍されている学生さんが各研究テーマを持ち寄って発表し、デイスカッションし、他の人の意見を聞くことで、今後の自分の研究をどう錬磨してゆくか考えてゆく授業です。講義参加者さんのうち、芸術支援領域の学生さんの研究テーマの一つを、私(和田学)が簡単にご紹介したいと思います。まだ、研究途中の段階のものなので、題目は仮題ですし、今後、内容も改訂される可能性があることを付記しておきます。
 
仮題)美術館の機関連携における調査研究と今後の展開に関する考察

 この研究は、国内の美術館同士の連携を促進し、広報活動・研究活動の質を高めようとするものです。現在、この研究は、美術館という枠組みを超えて、屋外の美術作品などの芸術関連施設を含めた地図作りの検討に入っています。この地図は、“アートマップ”と呼ばれるそうです。この研究では、あまり一目に触れていないような芸術作品やスポットを、現地の人々からの意見を参考にし、地図を制作することで、新しい地図作りの可能性を探っています。

 パン屋のご紹介が多くなりましたが、明日もよろしくお願いします。

2012年1月27日金曜日

筑波大学付属図書館・特別支援教育における現代アートを用いた共同制作の可能性について

こんにちは。今日は筑波大学図書館と芸術科教育コース在籍中の院生の方の研究内容についてご紹介したいと思います。(文責・和田学)

 先ず、筑波大学図書館について

 私(和田)が大学院生として、筑波大学に入学した際、一番、驚いた施設が付属図書館でした。中央図書館という最も大きな施設がある他、体育と芸術の書物を専門に扱う体芸図書館という施設もあり、その二つの蔵書量が非常に多いです。他に医学書を扱う医系の図書館もあります。書物数が多いだけでなく、貴重な書物が当たり前のように平然と開架に置かれ、誰でも貸し出し複写できます。本当に驚きました。もちろん学外の方であっても簡単な手続きをすませて頂ければ、誰でも利用は可能です。本に興味がない人であっても、これだけ多くの書物と本棚が並ぶ様子を見ると、異空間に来たような印象を受けます。とても、おもしろいですよ。

 しかも、図書館内にスターバックスがあり、休憩がてら誰でもコーヒーが飲めます。お金は必要ですが(笑)。なかなか国立大学系の図書館内にスタバはないですよ。もちろん、普通のスタバです。

 特に、私が個人的におすすめの場所が、“中央図書館の地下閉架”です。通常、図書館の閉架といいますと、立ち入り禁止の場所となり司書の方に頼んで指定した書物を持ってきて頂くことになります。貴重な古い本が置かれているわけですから、自由に触れることができないわけです。ですが、筑波大学は階段を降りれば、何の手続きもなく、誰でも閉架の迷路のような本棚の並びに入り込むことができます。貴重な古書を実際に手に取り、自由に閲覧・複写できるわけです。それだけではありません。閉架には“中二階”という、図書館にしては珍しい建築様式があります。なんと、地下一階の中に、階段で昇る“広い二階”が設けられ、そこにも膨大な数の戦前戦中の古書が置かれています。更に、中二階の中程には施錠された閉架が設けられており、受付で鍵を借りると中に入り戦前戦中の古い書物類を閲覧することができます。その中二階の鍵のシステムは非常に面白く、鍵を開け、外から開けて中に入り扉を閉めると自動的に鍵が締まり、中からは開けられますが、一旦外に出ると鍵がない限り中には入れません。ちょっと、推理小説の密室の雰囲気を味わえるような所です。
 実は、中央図書館には更に、別の場所にいくつか閉架があり、本来、スタッフ以外立ち入り禁止の場所でも、手続きを踏むと、その場所に入ることができます。探してみるのも面白いかもしれません。

 本に興味のない方でも、ぜひ一度、お越し下さい。他で経験できないような空間が味わえますよ。

 さて、芸術科教育コースの院生の方の研究テーマのご紹介です。

●(仮題)「現代アートの要素を含んだ共同制作による生徒間のコミュニケーションの可能性〜特別支援学校での授業実施から〜」

 この院生の方は実際に特別支援学校に勤務する経験を持ち、その経験を基に、特別支援対象の生徒さんへの美術教育の可能性を探るため本学に入学されました。特に、絵を描いたり、粘土を練ったりすることは一人で行うことが多いですが、この研究では集団で共同制作することが重視されています。なぜ、集団で制作する必要があるのかと言いますと、生徒さん同士のコミュニケーションを促すことができるのではないか、という想定があるからです。確かに特別支援の生徒さん達は、コミュニケーション、つまり、自分の気持ちを表現し相手に伝えること、または受け取ることが得意ではないかもしれません。そこで、共同で美術作品を制作することで、必要となってくるコミュニケーション活動を促すわけです。確かに、絵画・彫刻・デザインなどのように技能の熟達を重視した教材よりも、作者の考え方や思いを伝達する現代アートの方が、比較的、教材として導入しやすい、扱いやすいものといえます。
 この研究内容も、今後、おって紹介したいと思います。

 今週も多くの方にブログに来て頂きました。ありがとうございます。また、来週もよろしくお願いします。

2012年1月26日木曜日

こんにちは。まだ、筑波では日陰に雪が積もっています。こんなに雪が残るとは思いませんでした。。。
 今日は、芸術科教育コースに在籍中の院生の方の個人研究の一つについて紹介し、対話型鑑賞の実践について昨日からの続きを紹介したいと思います。(文責・和田学)

■モルデイブ共和国の美術教育 開発途上国における美術教育開発はどうあるべきか(仮題)

 モルデイブ共和国はインドの南西に位置する島国です。本コースに在籍する院生の方は、青年海外協力隊の活動の一貫で現地の小学校に図画工作の教員として派遣されたそうです。そして、その教員体験を基に、このモルデイブの図画工作教育のあるべき姿について検討し、具体的なモデルの開発も視野に入れて研究を進めるそうです。この国は、経済発展に大きく貢献する理数教科に力を入れ、美術教育には力を入れていないそうです。モルデイブの美術教育は、Practical Artと呼ばれ、実践的な技術とでも訳せるでしょうか、日本の技術科教育などと同じような性質を持つそうです。つまり、日本のように情操を育むような教育ではないそうです。そこで、この国において、美術教育がどうあるべきか、考察するそうです。

 明日は、現代アートの要素を含んだ共同制作による生徒間のコミュニケーションの可能性(仮題)です。

■芸術鑑賞論B

青木孝浩先生「対話型鑑賞法における『言葉のツール』考察レポート」から
(一部省略しています。)
*昨日からの続き

□トーク終了時の問いかけ
「今日はよく意見が言えました。友だちの意見を聞いて、どうだったかな?人それぞれ見方、感じ方を知ることができてよかったですね。」「一つの作品で、こんなに話しあったこと、あったかな?今日は、それだけでもすごいよね。また今度違う作品でトークしてみよう。」
「みんなの意見を聞きながら、この作品について自分の考え方を持てたかな?」「今日は先生が質問しながら進めたけど、今度、ぜひ美術館に行って、友だちとトークしてみよう。きっと新しい発見があるよ。」

□対話型をしやすくするための普段からの取り組み
●制作の時の机間指導中、褒めるときには、できるだけ具体的に褒める。そして、作品の印象を簡潔に言ってあげる。
●校内展示の名画の複製画に「投げかけキャプション」を付ける。例えば、ゴッホの星月夜の絵なら、「どうして空をこんな風に描いたのだろう」という風にです。結構生徒は足をとめて絵を見ながら、あれこれ対話するものです。

まとめとして(*最後に青木先生の一言です)

対話型鑑賞では、様々な言葉のツールを駆使していく必要がありますが、学校で行う場合(子どもを相手に行う場合)一番大切なのは子どもの目線を大切にするという視点だと思います。子どもは、大人と同じように見たり感じたりしていませんから、それを踏まえながら、発達段階に応じた発問をしていくことが大切ではないでしょうか。

 青木先生、ありがとうございました。

2012年1月25日水曜日

対話型鑑賞(4)・「現代アートを題材とした美術教育」について

こんにちは。今日のつくばは、先日の積もった雪が日陰に残っていたせいか肌寒い一日となりました。

 今日は、三時限(12:15〜13:30分)に芸術科教育実践演習という授業がありました。この授業は、美術教育の現状をふまえたうえで、自ら問題設定を行い、その問題解決のプロセスを立てる姿勢を身につけるものです。現在は、この授業の中で、三月末に新潟大学で開催される美術科教育学会への口頭発表予定の研究内容の準備を進めています。芸術科教育コースに在籍する三人の院生の方の共同研究です。
 この内容の詳細については、追って記したいと思います。

 さて、今日は、先日までの芸術鑑賞論B(一学期)対話型鑑賞の実践に加え、芸術科教育コースに在籍されている三人の院生の方の研究テーマの一つについて簡潔に紹介したいと思います。詳しい内容は、今後、追ってご紹介させて頂く予定です。また、研究タイトルは現在の所、仮題であり正式なものではありません。内容は私(和田)の説明ですのであしからず。とりあえず、今日はお一人目から。。

●仮題「現代アートを題材とした小学校と美術館の連携プログラム」
 現代アート、という言葉、なじみの薄い人は多いかもしれません。一般的に言うと、“難解な美術作品”“よく分からない芸術作品”とでもいえるでしょうか。簡潔に言うと、制作者が、作品を通じ、鑑賞者へ何らかの概念(コンセプト)、考え方・物の見方など)を伝えることに重きを置いた芸術作品とでもいいましょうか。。実は、こういった難解な芸術作品、美術の先生や専門家であっても、実は、あまりよく分からないものなのです。特に、小学校の先生のように音楽・体育・国語など全教科を教える先生(*一部、東京などでは教科専門の先生がいる)の場合、なかなか一教科の教材開発に力を注ぐことは難しいもので、現代アートは近寄り難いものでしょう。図画工作の授業の中で、難解な美術作品を子供達へ鑑賞させることは難しいでしょう。
 この院生の方の研究では、これまで近寄り難かった現代アートを小学校へ教材として取り入れる試みだけでなく、美術館と小学校との連携方法を具体的に提示しています。この研究で特におもしろい所は、今まで難解だった現代アートへの接近方法(アプローチ)に“エントリーポイント”と呼ばれる考え方を取り入れ、接しやすく分かりやすくしたことです。エントリー、つまり“入り口”という考え方です。先ず、最初に現代アートに近づく際、どのような“入り方”、接し方をするのか、それを最重視しているところが、この研究の斬新な所です。その“入り口”は、子供達への教育的な意義に沿い、6種類に設定されています(以下、六つの分類の説明はご本人のものを提示します)。

1.視覚的アプローチ(スケールの大きなものや細部まで手を加えた作品等、視覚的に面白みのある作品を鑑賞することで興味関心を高め 
る)
2.体験的アプローチ(実際に作品に触れる、聴く、体感することで作品を印象付け、理解につなげる)
3.経験的アプローチ(作品を自分の経験や日常に結びつけて作品を鑑賞する)
4.造形的アプローチ(素材の面白さや造形方法に注目しながら作品を鑑賞する。造形活動への関連付け)
5.理論的アプローチ(作品が何から作られたのか、どのようにして作られたのかを読み取りながら鑑賞する)
6.コミュニケーション的アプローチ(対話型やアーテイストトーク、ワークショップ型の鑑賞等、鑑賞行為への他者との関わりを中心に行う。

六つのアプローチがあるわけですが、この六種類のパターンのどれかを“エントリーポイント”に設定し、鑑賞を始め、その後、他のアプローチを組み合わせて、どう鑑賞を展開するか、どう終えるのかは自由に設定できます。 例えば、先ず、現代アート(芸術作品)に触れる(体験的アプローチ)、次に見る(視覚的アプローチ)、そして考える(理論的アプローチ)など、鑑賞の順序の組み合わせは自由なわけです。そして、特に、何から鑑賞を始めるか、これが重視されているわけです。
 今後、具体的な学校と美術館との連携方法など、追って詳細をお伝えしようと思います、

 明日は「モルデイブ共和国の美術教育ー発展途上国における美術教育の現状と今後の課題」(仮題)です。


◎対話型鑑賞の続き
青木孝浩先生「対話型鑑賞法における『言葉のツール』考察レポート』より
*昨日からの続きです。

□意見が出ない時、どうするのか
●『部分を拡大して見せる』「対話のポイントを絞って、例えば、注目して欲しいポイントから対話を進めるという進め方。全体的だと、要素の多い作品では、生徒もどこから言っていいか分からなくなるようです。」
●『強制発言』『指名』「実は、考えている生徒は結構いるもので、言えないだけの生徒もいます。ですから、いっそのこと、答えるよう指名したり、順番で答えさせたりすると、意見も言ってくれます、。その意見から、発見できそうな意見が出てきたら、『よい意見がでましたね。どうしてそうなのか、みんなで考えてみましょうか』などと意見を取り上げ、対話を進めることができると思います。」

□意見が偏り、広がっていかない場合、どうするか
1.制作された年代や時代背景を伝えてみる(新しい判断材料を与える)。
2.造形的な要素に切り替える(構図や色遣いから読みとれることに目線を変える)。
3.関連のある違う作品を与えてみる(同じテーマの作品や、同じ作者の別作品。あるいは同じ作品のスケッチ等)。
4.全く反対の考えや見方を伝えてみる。
*生徒が知らないようなとびきりのネタをいくつか持ってトークに臨みたいものです。

□対話型鑑賞の終わり方
●オープンエンド型 発想を広げた状態で終わりにする。それぞれの解釈ができやすいが、まとまりはない。
●意見収束型 作品の解釈につながるような意見をまとめながら終わりにする。生徒の頭の中が整理されますが、作品によっては発想が固定されてしまう恐れもある。
●問題提起型 出てきた意見に対して、問題を投げかけて終わりにする、2時間扱う際の1時間目の終わりには有効。または自主的に調べてみたいという生徒にも有効です。
●知識教授型 しっかりと知っておいて欲しい時代背景や作家のエピソードや残した言葉などを伝えて終わりにする。解釈や価値観を教えることではありません。知識を教えることで、見方が深まる場合はとても有効な手段です。

 明日はいよいよ“対話型鑑賞の実践”終わりです。

2012年1月24日火曜日

対話型鑑賞(3)・三学期の今日の授業内容について

こんにちは。
 つくばは、昨夜から雪がふり始め、今朝から道路が凍結したため、交通渋滞が続いていたようです。午前中から日が照り始めたため、午後にはほとんど雪が解けてしまいました。それでも、日陰の雪はまだ残っていますが。。。さきほど美術鑑賞論B(三学期)の授業が終わったばかりです。 

 今日は、昨日の続きの芸術鑑賞論B(一学期)の中で行った対話型鑑賞と、今、終わったばかりの芸術鑑賞論B(三学期)の授業の振り返り、この両方を掲載します。興味ある方をご覧下さい。

●1月24日(水)芸術鑑賞論B(三学期)の振り返り
 一学期に対話型の鑑賞方法の検討と実践をしました。二学期には複数の作品同士を比較する比較型の鑑賞方法、更に美術作品の良い悪いという判断力を育成する美術批評教育という鑑賞方法についての検討・実践をしました。一学期は石崎和宏先生、二学期は和田学がそれぞれ主担当の教員となり授業を進めてきました。
 そして、三学期には、石崎先生が主となり、受講生の方自らが、“美術鑑賞を深める”、ということはどういうことなのかを考え、鑑賞者(受講生の方々)を対象にし、“鑑賞の深まり”を調査することになりました。当然、“鑑賞の深まり”は何なのか、各自受講生の方により異なりますので、調査を始める前に、この授業で各自が調査方法や評価の基準などを発表し、他の方の意見を取り入れることで、鑑賞の調査に対する考え方を再点検してもらうことになりました。
 今日の受講生の方のお二人の発表は、非常に斬新なものでした。一人の方は、美術を鑑賞する際、鑑賞者へ作品の情報を与えると、どれだけ鑑賞行為が深まるのか、を調査するようです。作品の情報とは作者の生い立ちなど、伝記の他に学者が調査した歴史的事実もあるわけです。それらの情報を、対話型鑑賞中の人に情報投入することで、その後、どれだけ“鑑賞が深まった”のか調べるというものです。
 もう一人の方は、そもそも、ある人が“鑑賞を終える”ということはどういうことなのかを問題にしています。そして、“鑑賞が深まる”ということは、“鑑賞が終わった”、“深まった”と鑑賞者自身が判断することだとしています。それを踏まえたうえで、 “鑑賞の深まり”とは、鑑賞者個人の体験をいかに作品と結びつけれるのか、ということへ設定し、それを調査するようです。
 来週からは、授業の中で、受講生の方々の鑑賞調査の実践が始まります。とても楽しみです。随時、公開していきたいと思います。

●芸術鑑賞論B(一学期)対話型鑑賞について
さて、昨日は、実際に対話を中心にした鑑賞方法をどのように展開してゆけばよいのか、その例を提示していました。今日は、その展開部です。
 青木孝浩先生(宇都宮市立一条中学校)の「対話型鑑賞法における『言葉のツール』考察レポート」を参考にさせて頂いております。
■鑑賞が始まった直後、進行役の方は、生徒へ作品の中で気づいたところから何でも指摘できるように促します(前回のブログを参考)。

■トーク中の発問*生徒が発した言葉に対し、根拠を言わせると良い。
 「どこからそう感じた?」「なぜ、そうだと思う?」「さっき、○○という違う意見を言った人もいましたね。どうでしょう。」「○○の意見が多かったから、そこからよく観てみましょうか。」「同じような考えを持った人、いるかな(挙手させる)」「たくさんの意見が出たから、ちょっと整理してみようか。(整理して伝える)」「今言った意見、もう一度言ってくれるかな。」「そのことについて、他のクラスで○○なんていう意見も出たよ。」「もっと隅の方まで良く見てごらん。」

■トーク終盤の発問(まとめに向けて*あまり一つの方向にばかり絞ってしまわないよう気をつける)
「いろいろ意見が出たけど、あらためて、どんな作品だと思う?」「どうして作者は、こんな風に描いた(作った)んだろうね?」「この絵に物語をつけるとしたら、どんな題名をつけてみる?」「どんな作者のメッセージが込められているんだろうね。想像してみよう。」「みなさんだったら、同じテーマでどんなものを作るかな(追体験への導き)」「この作品、みんなだったらどんな所に展示したいですか。

*閉ざされた質問:生徒の思考を止めてしまう注意すべき発問
1.無理にまとめようとしたとき
2.生徒の発言が待ちきれないとき
3.作品への思い入れが強すぎる場合

注意したい言葉かけの例(*かならずしも悪いというわけではないが、できるだけ控えたい言葉の例です) 
「○○は、どう?○○にも見えてこないですか?」「○○は、○○という感じに見えませんか?」「その考えは面白いですね。でも実は、○○ということです。」「実は○○ということなんだけれども、みんなはどう思う?」「この作品から、どんなことが分かるかな?」

 明日は、鑑賞者の意見が出ない時、進行役はどうするのか、意見が偏った場合、広がっていかない場合はどうするのか、について掲載します。
(文責・和田学)

2012年1月23日月曜日

対話型鑑賞について(2)ー実践へ向けて

こんにちは。今日は前回(金曜日)の対話型鑑賞についての続きです。(文責・和田学)

 前回までのまとめ 芸術科教育コースでは、芸術鑑賞論B(通年)の一学期において、対話型鑑賞という芸術鑑賞の方法論について受講生の方々が学び、そして実践をしました。対話型鑑賞は、ただ単に美術作品を前にして鑑賞者が自由に語り合うというだけではなく、そこには司会者、進行役のようなファシリテーターと呼ばれる人物がおります。このファシリテーターは、主に鑑賞者達の活発な意見を促す他に、意見をまとめたり、鑑賞活動を活性化・調整する役割を果たします。そして、このファシリテーターの役割は 主に、受容(鑑賞者達の意見を受け入れる)・交流(鑑賞者同士の互いの対話を調整する)・統合(鑑賞者達の対話をまとめ、対話の流れの転換を計る)という、三つがあります。

では、この進行役(ファシリテーター)は、実際にどのような言葉かけをすることで、対話型鑑賞を進めてゆくのでしょうか。 

芸術鑑賞論Bの授業では、以下のレポートを基に、実践へ向け、好例を捉えることになりました。中学校の現場で働く先生が、生徒達を対象にして具体的な内容を記したもので、大変分かり易く記されております。学校現場の場合、進行役(ファシリテーター)は先生ということになります。

以下、青木考浩(宇都宮市立一条中学校)「対話型鑑賞法における『言葉のツール』考察レポート」をまとめてみました。


●対話型鑑賞のねらい
1.主として美術作品に親しんでもらうことをねらいにした授業
2.作者の制作意図や作品の主題に迫ることをねらいにした授業
3.自分なりの解釈を作ることをねらいにした授業
4.造形要素や技法の工夫を考えることをねらいにした授業
5.時代背景や作者の人物像に迫り作品の価値に迫ることをねらいにした授業

●対話型鑑賞における生徒の活動
1.作品を隅々までよく観ること
2.観て感じたことを言葉に出すこと
3.意見を共有すること
4.共有した意見から自分なりの新しい考えを創造すること

●教師が意識する言葉のツール
1.作品の隅々まで観させる言葉
2.言葉に出てきた言葉を、受容、確認する言葉
3.共有化を図るために、繰り返し、異なった意見の取り上げ、転換といった言葉
4.考えを創造するために、視点の変換、集約、振り返り、情報提供などの言葉

次に実践へ向けた言葉かけの例です。

●授業開始最初の「投げかけ」
 美術作品を見せて、生徒全員に意見を発表してもらう。

「この絵の中で、気になるところ、気づいたこと、発見したこと何でもいいから言ってごらん。(必要に応じて紙に書かせても良い)全員に、発表してもらいます。」*この最初の教師の言葉掛けにより、生徒がどのような視点を持っているのかを知り、その後のトークの流れを知ることができる、としています。

●全員発表中の「受容・確認」

「なるほど、いいところに気づいたね」「どこがそうなっている?」「他の人も気づいたかな?」「後で、みんなでそのことを考えてみましょう。」「それは先生も気づかなかった、すごいね。」「○○ということでいいかな?」「どうしてそう思った?」「そこまで考えてくれたんだ。」「なんで、『そんな物を・そんな風に・そんな色に・そんな形に』描いたんだろうね」

 明日は、授業の展開部の発話についてです。


2012年1月20日金曜日

対話型鑑賞について(芸術鑑賞論B一学期)

今日は、芸術鑑賞論Bの一学期の授業の中で中心テーマとなった、対話型鑑賞について詳しく述べていきたいと思います。

 前回も記しましたが、この対話型鑑賞は、ただ単に芸術作品を複数の鑑賞者が対話をしながら鑑賞行為を進めてゆく、というだけではなく、進行役(ファシリテーター)という司会者、まとめ役がいることで、ある程度、鑑賞者のみなさんの意見をまとめたり、積極的な対話を促すための言葉かけなども行います。この芸術鑑賞論の授業では、受講生のみなさんがこの進行役を務めることで、あらためて対話型鑑賞の有効性について考えてもらうことになります。

 先ず、芸術鑑賞論Bを一学期に始めるにあたり、どういう基本文献を用いたのか記しておきます。いわゆる“対話型鑑賞”は、主にニューヨーク近代美術館において勤務していたアメリア・アレナス(Amelia Arenas)という人物による『なぜ、これがアートなの?』(和文題目)という著書を通じ、広く普及しました。日本では上野行一さん監修『まなざしの共有ーアメリア・アレナスの鑑賞教育に学ぶ』(淡交社)により分かりやすくアレナスの対話型鑑賞が紹介・説明されています。芸術鑑賞論Bにおいても、先ず上野さんのこの著書を基本文献とすることで対話型鑑賞の理解を深めることになりました。
 特に上野行一さんの『まなざしの共有』から、第二章「対話を促す三つの基本』を基に、受講生の方々がデイスカッションをしました。

 この第二章には、人々が芸術作品を鑑賞をする際に必要な態度として、ある特定の芸術の専門家による意味付けを受け入れるのではなく、鑑賞者による自由な鑑賞行為の必要性が求められています。確かに、私達一般の人々(美術の専門外)は、美術館などで美術作品を鑑賞する際、ある特定の美術批評家や美術史家などの専門的な研究者、あるいは制作者による美術作品への価値観や意味付けを一方的に受け入れることが多いのではないでしょうか。
 上野さんの説明によると、アレナスの対話型鑑賞は、そうした特定の見方を押しつける鑑賞行為から脱却し、鑑賞者自らが自分の感覚や思考をはたらかせて作品と対峙することを重視するものとされます。対話型鑑賞の進行役は、鑑賞者のこうした行為を促す役割を務めることになります。
 では、進行役(ファシリテーター)は対話型鑑賞を進める際、具体的にはどのような行為をすればよいのでしょうか。
 上野さんの『まなざしの共有』53頁には、アレナスの対話型鑑賞において、進行役が必要な三つの行為をあげています。

◎受容ー観衆の意見を受容する
◎交流ー観衆相互の対話を組織化する
◎統合ー観衆の意見の向上的変容を促す

 この三点が、対話型鑑賞における進行役の基本的な態度です。
 次回はこの三点について説明したいと思います。(文責・和田学)

2012年1月19日木曜日

芸術鑑賞論Bの授業について(一学期)

みなさん、こんにちは。できるだけ、こまめに更新してゆきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

 今日(1月19日)は、芸術科教育コースの先生と院生さん達が、同大学内の丸善書店にて集り、芸術科教育コースの院生室に置く蔵書を選びました。特に、美術や教育に限られることなく、幅広い視点で蔵書が選ばれ、購入が決定しました。毎年、蔵書を増やしてゆくことで、充実した学習環境が整ってきています。

 さて、今日は火曜日三限に開講されている芸術鑑賞論Bについてお話ししたいと思います。

 芸術鑑賞論は、簡潔に説明しますと、その名前の通り、芸術の鑑賞に関して理論的な内容を検討する授業です。

 特に、平成23年度は、対話型鑑賞という方法論の検討から始まりました。対話型鑑賞は、美術作品に対して何人かの人々が対話をしながら鑑賞を進めてゆく、というものです。ですが、好き勝手に話しあうだけでは、意見もばらばらになり、鑑賞は深まりませんから、その中に一人、進行役(ファシリテーター)という人物を置くことで、鑑賞行為の方向をある程度、コントロールする役割を果たします。進行役は、意見をまとめる、誰かの意見を言い換える、など、様々な言葉かけの技術が必要です。さらに、経験を積むことで熟達してゆくことが必要でしょう。一学期は、この進行役の技術のトレーニングを、院生さん達が積むことで、ワークショップや授業など幅広い場で活用できることが求められているといえます。ですが、この授業では、院生さんの鑑賞方法に対する考え方が深まり、そうしたうえで自分達独自の鑑賞方法へ生かすことができる、ということが最も望ましいものですから、特に対話型鑑賞自体の技術習得そのものに重点を置くものではありません。そのため、対話型鑑賞の実践とは別に、この方法論の有効性に対するデイスカッションも盛んに行うことで、絶えず自分自身の鑑賞理論を批判的に捉える授業も何度も行いました。

 この美術鑑賞論の授業は通年ですが、一学期の授業の受講生の方々は、芸術科教育コースから四人、芸術支援専攻から四人、現職の教員の方が一人、計九人の方が集まりました。芸術支援コースは、芸術専門のコースに所属する専攻です。美術館経営や幅広い意味での芸術発展のための支援について考えるコースです。この授業の受講生の方々の所属を見ても分かりますが、学校教育の美術の授業に限らず、美術館やギャラリートークなど様々な場で鑑賞行為が行われることを視野に入れた授業です。こうした芸術専門分野と教育分野が融合した授業の開設は、他の国立大学法人の教育学部・教育研究科にはなく、芸術専門のコースを置いた筑波大学だからこそ、可能なものだと思います。
 
 一学期は、対話型鑑賞に関する文献を各自がまとめ、授業で発表した後、皆で意見をかわし合い、この方法論の有効性について検討することから始まりました。更に、院生の方々一人一人が作品を選定し、自らが進行役(ファシリテーター)となって受講生の方々を対象にして実践を行いました。そして、一学期(4月〜7月)の終わりには、各自、対話型鑑賞に対しての有効性について検討したレポートをまとめました。(*長くなりそうですので、今日はここで終えたいと思います。文責・和田学)

2012年1月18日水曜日

今日から、芸術科教育コースの授業内容について公開していきたいと思います。

みなさん、こんにちは。今日は、芸術科教育コース(筑波大学大学院修士課程教育研究科)が、2011(平成23)年度、必修授業として開講してきた三つの授業について簡単に説明したいと思います。
 今後、このブログの中で、三つの授業内容について詳しく発表していきたいと思います。ですが、ただ経過を公開するだけでなく、どなたでもこのブログを通じ、美術鑑賞や美術の教育的意義とは何か、学べるようなものにしたいと思います。非力ながら私の説明を加え、できるだけ簡単で分かり易い文章にするよう努力致しますので、美術について少しでも関心のある方は、ご気楽にこのブログへ訪れて下さい。お待ちしております。なお、この文章の文責は、芸術科教育コースの和田学です。

■芸術鑑賞論B(通年・火曜日三限 )
● 目的/人々は、芸術をどう理解するのか、その問いにかかわる研究成果を検討しつつ、美術教育における鑑賞教育の方法論について考察します。
● 実際の展開/一学期は美術作品を鑑賞する際、集団で対話をしながら鑑賞を進める対話型鑑賞法について学習し、討論・実践をしました。二学期は、二つ以上の作品同士を比較しながら行う比較鑑賞と美術批評を取り入れた鑑賞実践について討論・実践をしました。三学期は、美術鑑賞を深めるためのモデル図を学生さん達が各自、提案するというものです。

■芸術科教育研究B(通年・火曜日五限)
 ●目的と展開/大学院修士課程の学生さん達の各自の研究テーマに関して、毎回、担当者を決めて発表して頂き、それに対し他の学生さん達が質問することで、各自の研究内容の深化を計る授業です。

■芸術科教育実践演習(通年 水曜日三限)
● 目的とねらい/美術教育を実践する際、または現代の美術教育の現状において、どのような課題があり、どう問題設定をすればよいのか、更にその問題解決のプロセスについて考察してゆく授業です。考察する際の基盤となる理論は、西條剛央さんの『ライブ講義 質的研究とは何か』(新曜社)です。

 一年間を通じ、かなり充実した授業内容になっていると思います。
 できるだけ、頻繁に更新をしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。