芸術科教育コースによるブログです。授業内容や学校生活の様子などを更新していきます。

2012年1月25日水曜日

対話型鑑賞(4)・「現代アートを題材とした美術教育」について

こんにちは。今日のつくばは、先日の積もった雪が日陰に残っていたせいか肌寒い一日となりました。

 今日は、三時限(12:15〜13:30分)に芸術科教育実践演習という授業がありました。この授業は、美術教育の現状をふまえたうえで、自ら問題設定を行い、その問題解決のプロセスを立てる姿勢を身につけるものです。現在は、この授業の中で、三月末に新潟大学で開催される美術科教育学会への口頭発表予定の研究内容の準備を進めています。芸術科教育コースに在籍する三人の院生の方の共同研究です。
 この内容の詳細については、追って記したいと思います。

 さて、今日は、先日までの芸術鑑賞論B(一学期)対話型鑑賞の実践に加え、芸術科教育コースに在籍されている三人の院生の方の研究テーマの一つについて簡潔に紹介したいと思います。詳しい内容は、今後、追ってご紹介させて頂く予定です。また、研究タイトルは現在の所、仮題であり正式なものではありません。内容は私(和田)の説明ですのであしからず。とりあえず、今日はお一人目から。。

●仮題「現代アートを題材とした小学校と美術館の連携プログラム」
 現代アート、という言葉、なじみの薄い人は多いかもしれません。一般的に言うと、“難解な美術作品”“よく分からない芸術作品”とでもいえるでしょうか。簡潔に言うと、制作者が、作品を通じ、鑑賞者へ何らかの概念(コンセプト)、考え方・物の見方など)を伝えることに重きを置いた芸術作品とでもいいましょうか。。実は、こういった難解な芸術作品、美術の先生や専門家であっても、実は、あまりよく分からないものなのです。特に、小学校の先生のように音楽・体育・国語など全教科を教える先生(*一部、東京などでは教科専門の先生がいる)の場合、なかなか一教科の教材開発に力を注ぐことは難しいもので、現代アートは近寄り難いものでしょう。図画工作の授業の中で、難解な美術作品を子供達へ鑑賞させることは難しいでしょう。
 この院生の方の研究では、これまで近寄り難かった現代アートを小学校へ教材として取り入れる試みだけでなく、美術館と小学校との連携方法を具体的に提示しています。この研究で特におもしろい所は、今まで難解だった現代アートへの接近方法(アプローチ)に“エントリーポイント”と呼ばれる考え方を取り入れ、接しやすく分かりやすくしたことです。エントリー、つまり“入り口”という考え方です。先ず、最初に現代アートに近づく際、どのような“入り方”、接し方をするのか、それを最重視しているところが、この研究の斬新な所です。その“入り口”は、子供達への教育的な意義に沿い、6種類に設定されています(以下、六つの分類の説明はご本人のものを提示します)。

1.視覚的アプローチ(スケールの大きなものや細部まで手を加えた作品等、視覚的に面白みのある作品を鑑賞することで興味関心を高め 
る)
2.体験的アプローチ(実際に作品に触れる、聴く、体感することで作品を印象付け、理解につなげる)
3.経験的アプローチ(作品を自分の経験や日常に結びつけて作品を鑑賞する)
4.造形的アプローチ(素材の面白さや造形方法に注目しながら作品を鑑賞する。造形活動への関連付け)
5.理論的アプローチ(作品が何から作られたのか、どのようにして作られたのかを読み取りながら鑑賞する)
6.コミュニケーション的アプローチ(対話型やアーテイストトーク、ワークショップ型の鑑賞等、鑑賞行為への他者との関わりを中心に行う。

六つのアプローチがあるわけですが、この六種類のパターンのどれかを“エントリーポイント”に設定し、鑑賞を始め、その後、他のアプローチを組み合わせて、どう鑑賞を展開するか、どう終えるのかは自由に設定できます。 例えば、先ず、現代アート(芸術作品)に触れる(体験的アプローチ)、次に見る(視覚的アプローチ)、そして考える(理論的アプローチ)など、鑑賞の順序の組み合わせは自由なわけです。そして、特に、何から鑑賞を始めるか、これが重視されているわけです。
 今後、具体的な学校と美術館との連携方法など、追って詳細をお伝えしようと思います、

 明日は「モルデイブ共和国の美術教育ー発展途上国における美術教育の現状と今後の課題」(仮題)です。


◎対話型鑑賞の続き
青木孝浩先生「対話型鑑賞法における『言葉のツール』考察レポート』より
*昨日からの続きです。

□意見が出ない時、どうするのか
●『部分を拡大して見せる』「対話のポイントを絞って、例えば、注目して欲しいポイントから対話を進めるという進め方。全体的だと、要素の多い作品では、生徒もどこから言っていいか分からなくなるようです。」
●『強制発言』『指名』「実は、考えている生徒は結構いるもので、言えないだけの生徒もいます。ですから、いっそのこと、答えるよう指名したり、順番で答えさせたりすると、意見も言ってくれます、。その意見から、発見できそうな意見が出てきたら、『よい意見がでましたね。どうしてそうなのか、みんなで考えてみましょうか』などと意見を取り上げ、対話を進めることができると思います。」

□意見が偏り、広がっていかない場合、どうするか
1.制作された年代や時代背景を伝えてみる(新しい判断材料を与える)。
2.造形的な要素に切り替える(構図や色遣いから読みとれることに目線を変える)。
3.関連のある違う作品を与えてみる(同じテーマの作品や、同じ作者の別作品。あるいは同じ作品のスケッチ等)。
4.全く反対の考えや見方を伝えてみる。
*生徒が知らないようなとびきりのネタをいくつか持ってトークに臨みたいものです。

□対話型鑑賞の終わり方
●オープンエンド型 発想を広げた状態で終わりにする。それぞれの解釈ができやすいが、まとまりはない。
●意見収束型 作品の解釈につながるような意見をまとめながら終わりにする。生徒の頭の中が整理されますが、作品によっては発想が固定されてしまう恐れもある。
●問題提起型 出てきた意見に対して、問題を投げかけて終わりにする、2時間扱う際の1時間目の終わりには有効。または自主的に調べてみたいという生徒にも有効です。
●知識教授型 しっかりと知っておいて欲しい時代背景や作家のエピソードや残した言葉などを伝えて終わりにする。解釈や価値観を教えることではありません。知識を教えることで、見方が深まる場合はとても有効な手段です。

 明日はいよいよ“対話型鑑賞の実践”終わりです。