芸術科教育コースによるブログです。授業内容や学校生活の様子などを更新していきます。

2012年1月31日火曜日

今日の芸術鑑賞論(B)

こんにちは。今日は先程、芸術鑑賞論B(通年)の授業が終わったばかりです。
 三学期の授業では“鑑賞の深まり”、つまり、鑑賞を深めてゆくことはどういうことなのか、受講生のみなさん、お一人お一人が考え、実際に鑑賞を深めるための鑑賞の実践を行ってもらっています。その際、進行役となり、他の受講生の方々を対象として、対話型の鑑賞活動を展開して頂きます。
 今日はお二人の方に発表して頂きました。

● 先ず、お一人目の方は“芸術を深める”ということを、嗅覚・触覚・味覚などの五感を通じて体験してゆく行為と定めています。芸術作品の味覚、などというと馴染みにくいかもしれませんが、実際、文部省の学習指導要領の中では、美術の授業において、“鑑賞”は、作品から“良さを味わう”という言い回しが使われています。この方は、特別支援の生徒さんを対象とした鑑賞教育の在り方を模索されている方なので、五感を使った感覚的な鑑賞方法は、論理的な道筋を立てた言語活動がしにくい生徒さんにとっても、有効な手段といえるでしょう。

実践
1)先ず、スライドに映し出された子供が描いたような風景画を見て、鑑賞者は思いついた擬音語を述べる。ガタガタ、キラキラ、ゴツゴツなど。
2)次に、先程、述べた擬音語が、絵の中のどの部分を見たのかを述べる。例えば、“フワフワ”は“飛行機を見て”など。
3)次に、なぜ、その絵の部分を見て、そういう擬音語で言ったのか、理由を述べる。
例えば、飛行機を見て、“フワフワ”と述べた理由は、“飛行機が浮いているような感じがした”からだと答えます。
4)ここで、司会者の方は、鑑賞の対象となった絵の作者を発表します(情報投入)。一見、子供が描いた風景画のように見えますが、実は、すでに他界された筋ジストロフイーの成人男性の方が描いた絵だということが実際の写真と共に紹介されます。
5)実際の作者を知ったうえで、この絵を見た全体の印象について述べてもらいます。
 今までの印象がくつがえされたことにより、新しい印象を述べることが期待された授業だと言えます。





● では、もう一人の方です。この方は、“鑑賞を深める”ということを、“情動”つまり、鑑賞者が好き嫌いなどの個人的な意思決定を強く引き起こした際に心が揺れ動くことと定義しました。

実践
1) 諸外国の観光名所の写真が掲載されたポストカードを数枚だし、“もらえますので、この中からカードを一枚選んで下さい。”と言います。
*受講生の皆さんはカードを一枚一枚選びました。
2)次に、その自分の選んだカードの写真の良い所を他の人に宣伝するような感じで、紙に短文で記してもらいます。その例として、新書が販売された際の表紙に巻かれた帯のキャッチコピーのようなものだと説明します。
3)次に、各自、自分が書いたキャッチコピーをみなさんに発表してゆきます。進行役の方は、なぜそう思ったのか、その都度、発表者に聞いていきます。

この三段階の実践には以下のような理論があります。
1) 作品の選択 好き/嫌いという情動の発動
2) 選択理由・作品の特徴の言語化 「○○が△△(だから好き)」という記述・分析・解釈
3) 宣伝文句 作品の価値を定める判断(解釈も含まれる?)
 
 来週は、また別の方が発表します。

2012年1月30日月曜日

こんにちは。つくばには先週降った雪がまだ日陰に残っています。寒い一日となりました。

 余談ですが、筑波は“パンのまち”と呼ばれるくらい、非常にパン屋が多いです。それだけでなく、研究学園だけに、パン職人の方も研究者肌が強いのか、飾りっ気がなく、小麦の本質に迫ったようなパンが多いです。ネットで見て頂けると分かりますが、町の中に隠れて店が点在しており、全ての店を見つけるのは容易ではありません。お一人で全て運営されている店も少なくなく、隠れた名店と呼ばれるものが多いです。すぐにパンの在庫が無くなり、お昼頃に閉店する店もあります。本当に、他では出会えないような、本格的なパン屋さんが多いので、是非一度、つくばに訪れてみて下さい。職人気質の高さに驚きますよ。

 さて、今日は、火曜日の美術科教育研究Bの授業をご紹介したいと思います。この授業は、大学院修士課程に在籍されている学生さんが各研究テーマを持ち寄って発表し、デイスカッションし、他の人の意見を聞くことで、今後の自分の研究をどう錬磨してゆくか考えてゆく授業です。講義参加者さんのうち、芸術支援領域の学生さんの研究テーマの一つを、私(和田学)が簡単にご紹介したいと思います。まだ、研究途中の段階のものなので、題目は仮題ですし、今後、内容も改訂される可能性があることを付記しておきます。
 
仮題)美術館の機関連携における調査研究と今後の展開に関する考察

 この研究は、国内の美術館同士の連携を促進し、広報活動・研究活動の質を高めようとするものです。現在、この研究は、美術館という枠組みを超えて、屋外の美術作品などの芸術関連施設を含めた地図作りの検討に入っています。この地図は、“アートマップ”と呼ばれるそうです。この研究では、あまり一目に触れていないような芸術作品やスポットを、現地の人々からの意見を参考にし、地図を制作することで、新しい地図作りの可能性を探っています。

 パン屋のご紹介が多くなりましたが、明日もよろしくお願いします。

2012年1月27日金曜日

筑波大学付属図書館・特別支援教育における現代アートを用いた共同制作の可能性について

こんにちは。今日は筑波大学図書館と芸術科教育コース在籍中の院生の方の研究内容についてご紹介したいと思います。(文責・和田学)

 先ず、筑波大学図書館について

 私(和田)が大学院生として、筑波大学に入学した際、一番、驚いた施設が付属図書館でした。中央図書館という最も大きな施設がある他、体育と芸術の書物を専門に扱う体芸図書館という施設もあり、その二つの蔵書量が非常に多いです。他に医学書を扱う医系の図書館もあります。書物数が多いだけでなく、貴重な書物が当たり前のように平然と開架に置かれ、誰でも貸し出し複写できます。本当に驚きました。もちろん学外の方であっても簡単な手続きをすませて頂ければ、誰でも利用は可能です。本に興味がない人であっても、これだけ多くの書物と本棚が並ぶ様子を見ると、異空間に来たような印象を受けます。とても、おもしろいですよ。

 しかも、図書館内にスターバックスがあり、休憩がてら誰でもコーヒーが飲めます。お金は必要ですが(笑)。なかなか国立大学系の図書館内にスタバはないですよ。もちろん、普通のスタバです。

 特に、私が個人的におすすめの場所が、“中央図書館の地下閉架”です。通常、図書館の閉架といいますと、立ち入り禁止の場所となり司書の方に頼んで指定した書物を持ってきて頂くことになります。貴重な古い本が置かれているわけですから、自由に触れることができないわけです。ですが、筑波大学は階段を降りれば、何の手続きもなく、誰でも閉架の迷路のような本棚の並びに入り込むことができます。貴重な古書を実際に手に取り、自由に閲覧・複写できるわけです。それだけではありません。閉架には“中二階”という、図書館にしては珍しい建築様式があります。なんと、地下一階の中に、階段で昇る“広い二階”が設けられ、そこにも膨大な数の戦前戦中の古書が置かれています。更に、中二階の中程には施錠された閉架が設けられており、受付で鍵を借りると中に入り戦前戦中の古い書物類を閲覧することができます。その中二階の鍵のシステムは非常に面白く、鍵を開け、外から開けて中に入り扉を閉めると自動的に鍵が締まり、中からは開けられますが、一旦外に出ると鍵がない限り中には入れません。ちょっと、推理小説の密室の雰囲気を味わえるような所です。
 実は、中央図書館には更に、別の場所にいくつか閉架があり、本来、スタッフ以外立ち入り禁止の場所でも、手続きを踏むと、その場所に入ることができます。探してみるのも面白いかもしれません。

 本に興味のない方でも、ぜひ一度、お越し下さい。他で経験できないような空間が味わえますよ。

 さて、芸術科教育コースの院生の方の研究テーマのご紹介です。

●(仮題)「現代アートの要素を含んだ共同制作による生徒間のコミュニケーションの可能性〜特別支援学校での授業実施から〜」

 この院生の方は実際に特別支援学校に勤務する経験を持ち、その経験を基に、特別支援対象の生徒さんへの美術教育の可能性を探るため本学に入学されました。特に、絵を描いたり、粘土を練ったりすることは一人で行うことが多いですが、この研究では集団で共同制作することが重視されています。なぜ、集団で制作する必要があるのかと言いますと、生徒さん同士のコミュニケーションを促すことができるのではないか、という想定があるからです。確かに特別支援の生徒さん達は、コミュニケーション、つまり、自分の気持ちを表現し相手に伝えること、または受け取ることが得意ではないかもしれません。そこで、共同で美術作品を制作することで、必要となってくるコミュニケーション活動を促すわけです。確かに、絵画・彫刻・デザインなどのように技能の熟達を重視した教材よりも、作者の考え方や思いを伝達する現代アートの方が、比較的、教材として導入しやすい、扱いやすいものといえます。
 この研究内容も、今後、おって紹介したいと思います。

 今週も多くの方にブログに来て頂きました。ありがとうございます。また、来週もよろしくお願いします。

2012年1月26日木曜日

こんにちは。まだ、筑波では日陰に雪が積もっています。こんなに雪が残るとは思いませんでした。。。
 今日は、芸術科教育コースに在籍中の院生の方の個人研究の一つについて紹介し、対話型鑑賞の実践について昨日からの続きを紹介したいと思います。(文責・和田学)

■モルデイブ共和国の美術教育 開発途上国における美術教育開発はどうあるべきか(仮題)

 モルデイブ共和国はインドの南西に位置する島国です。本コースに在籍する院生の方は、青年海外協力隊の活動の一貫で現地の小学校に図画工作の教員として派遣されたそうです。そして、その教員体験を基に、このモルデイブの図画工作教育のあるべき姿について検討し、具体的なモデルの開発も視野に入れて研究を進めるそうです。この国は、経済発展に大きく貢献する理数教科に力を入れ、美術教育には力を入れていないそうです。モルデイブの美術教育は、Practical Artと呼ばれ、実践的な技術とでも訳せるでしょうか、日本の技術科教育などと同じような性質を持つそうです。つまり、日本のように情操を育むような教育ではないそうです。そこで、この国において、美術教育がどうあるべきか、考察するそうです。

 明日は、現代アートの要素を含んだ共同制作による生徒間のコミュニケーションの可能性(仮題)です。

■芸術鑑賞論B

青木孝浩先生「対話型鑑賞法における『言葉のツール』考察レポート」から
(一部省略しています。)
*昨日からの続き

□トーク終了時の問いかけ
「今日はよく意見が言えました。友だちの意見を聞いて、どうだったかな?人それぞれ見方、感じ方を知ることができてよかったですね。」「一つの作品で、こんなに話しあったこと、あったかな?今日は、それだけでもすごいよね。また今度違う作品でトークしてみよう。」
「みんなの意見を聞きながら、この作品について自分の考え方を持てたかな?」「今日は先生が質問しながら進めたけど、今度、ぜひ美術館に行って、友だちとトークしてみよう。きっと新しい発見があるよ。」

□対話型をしやすくするための普段からの取り組み
●制作の時の机間指導中、褒めるときには、できるだけ具体的に褒める。そして、作品の印象を簡潔に言ってあげる。
●校内展示の名画の複製画に「投げかけキャプション」を付ける。例えば、ゴッホの星月夜の絵なら、「どうして空をこんな風に描いたのだろう」という風にです。結構生徒は足をとめて絵を見ながら、あれこれ対話するものです。

まとめとして(*最後に青木先生の一言です)

対話型鑑賞では、様々な言葉のツールを駆使していく必要がありますが、学校で行う場合(子どもを相手に行う場合)一番大切なのは子どもの目線を大切にするという視点だと思います。子どもは、大人と同じように見たり感じたりしていませんから、それを踏まえながら、発達段階に応じた発問をしていくことが大切ではないでしょうか。

 青木先生、ありがとうございました。

2012年1月25日水曜日

対話型鑑賞(4)・「現代アートを題材とした美術教育」について

こんにちは。今日のつくばは、先日の積もった雪が日陰に残っていたせいか肌寒い一日となりました。

 今日は、三時限(12:15〜13:30分)に芸術科教育実践演習という授業がありました。この授業は、美術教育の現状をふまえたうえで、自ら問題設定を行い、その問題解決のプロセスを立てる姿勢を身につけるものです。現在は、この授業の中で、三月末に新潟大学で開催される美術科教育学会への口頭発表予定の研究内容の準備を進めています。芸術科教育コースに在籍する三人の院生の方の共同研究です。
 この内容の詳細については、追って記したいと思います。

 さて、今日は、先日までの芸術鑑賞論B(一学期)対話型鑑賞の実践に加え、芸術科教育コースに在籍されている三人の院生の方の研究テーマの一つについて簡潔に紹介したいと思います。詳しい内容は、今後、追ってご紹介させて頂く予定です。また、研究タイトルは現在の所、仮題であり正式なものではありません。内容は私(和田)の説明ですのであしからず。とりあえず、今日はお一人目から。。

●仮題「現代アートを題材とした小学校と美術館の連携プログラム」
 現代アート、という言葉、なじみの薄い人は多いかもしれません。一般的に言うと、“難解な美術作品”“よく分からない芸術作品”とでもいえるでしょうか。簡潔に言うと、制作者が、作品を通じ、鑑賞者へ何らかの概念(コンセプト)、考え方・物の見方など)を伝えることに重きを置いた芸術作品とでもいいましょうか。。実は、こういった難解な芸術作品、美術の先生や専門家であっても、実は、あまりよく分からないものなのです。特に、小学校の先生のように音楽・体育・国語など全教科を教える先生(*一部、東京などでは教科専門の先生がいる)の場合、なかなか一教科の教材開発に力を注ぐことは難しいもので、現代アートは近寄り難いものでしょう。図画工作の授業の中で、難解な美術作品を子供達へ鑑賞させることは難しいでしょう。
 この院生の方の研究では、これまで近寄り難かった現代アートを小学校へ教材として取り入れる試みだけでなく、美術館と小学校との連携方法を具体的に提示しています。この研究で特におもしろい所は、今まで難解だった現代アートへの接近方法(アプローチ)に“エントリーポイント”と呼ばれる考え方を取り入れ、接しやすく分かりやすくしたことです。エントリー、つまり“入り口”という考え方です。先ず、最初に現代アートに近づく際、どのような“入り方”、接し方をするのか、それを最重視しているところが、この研究の斬新な所です。その“入り口”は、子供達への教育的な意義に沿い、6種類に設定されています(以下、六つの分類の説明はご本人のものを提示します)。

1.視覚的アプローチ(スケールの大きなものや細部まで手を加えた作品等、視覚的に面白みのある作品を鑑賞することで興味関心を高め 
る)
2.体験的アプローチ(実際に作品に触れる、聴く、体感することで作品を印象付け、理解につなげる)
3.経験的アプローチ(作品を自分の経験や日常に結びつけて作品を鑑賞する)
4.造形的アプローチ(素材の面白さや造形方法に注目しながら作品を鑑賞する。造形活動への関連付け)
5.理論的アプローチ(作品が何から作られたのか、どのようにして作られたのかを読み取りながら鑑賞する)
6.コミュニケーション的アプローチ(対話型やアーテイストトーク、ワークショップ型の鑑賞等、鑑賞行為への他者との関わりを中心に行う。

六つのアプローチがあるわけですが、この六種類のパターンのどれかを“エントリーポイント”に設定し、鑑賞を始め、その後、他のアプローチを組み合わせて、どう鑑賞を展開するか、どう終えるのかは自由に設定できます。 例えば、先ず、現代アート(芸術作品)に触れる(体験的アプローチ)、次に見る(視覚的アプローチ)、そして考える(理論的アプローチ)など、鑑賞の順序の組み合わせは自由なわけです。そして、特に、何から鑑賞を始めるか、これが重視されているわけです。
 今後、具体的な学校と美術館との連携方法など、追って詳細をお伝えしようと思います、

 明日は「モルデイブ共和国の美術教育ー発展途上国における美術教育の現状と今後の課題」(仮題)です。


◎対話型鑑賞の続き
青木孝浩先生「対話型鑑賞法における『言葉のツール』考察レポート』より
*昨日からの続きです。

□意見が出ない時、どうするのか
●『部分を拡大して見せる』「対話のポイントを絞って、例えば、注目して欲しいポイントから対話を進めるという進め方。全体的だと、要素の多い作品では、生徒もどこから言っていいか分からなくなるようです。」
●『強制発言』『指名』「実は、考えている生徒は結構いるもので、言えないだけの生徒もいます。ですから、いっそのこと、答えるよう指名したり、順番で答えさせたりすると、意見も言ってくれます、。その意見から、発見できそうな意見が出てきたら、『よい意見がでましたね。どうしてそうなのか、みんなで考えてみましょうか』などと意見を取り上げ、対話を進めることができると思います。」

□意見が偏り、広がっていかない場合、どうするか
1.制作された年代や時代背景を伝えてみる(新しい判断材料を与える)。
2.造形的な要素に切り替える(構図や色遣いから読みとれることに目線を変える)。
3.関連のある違う作品を与えてみる(同じテーマの作品や、同じ作者の別作品。あるいは同じ作品のスケッチ等)。
4.全く反対の考えや見方を伝えてみる。
*生徒が知らないようなとびきりのネタをいくつか持ってトークに臨みたいものです。

□対話型鑑賞の終わり方
●オープンエンド型 発想を広げた状態で終わりにする。それぞれの解釈ができやすいが、まとまりはない。
●意見収束型 作品の解釈につながるような意見をまとめながら終わりにする。生徒の頭の中が整理されますが、作品によっては発想が固定されてしまう恐れもある。
●問題提起型 出てきた意見に対して、問題を投げかけて終わりにする、2時間扱う際の1時間目の終わりには有効。または自主的に調べてみたいという生徒にも有効です。
●知識教授型 しっかりと知っておいて欲しい時代背景や作家のエピソードや残した言葉などを伝えて終わりにする。解釈や価値観を教えることではありません。知識を教えることで、見方が深まる場合はとても有効な手段です。

 明日はいよいよ“対話型鑑賞の実践”終わりです。

2012年1月24日火曜日

対話型鑑賞(3)・三学期の今日の授業内容について

こんにちは。
 つくばは、昨夜から雪がふり始め、今朝から道路が凍結したため、交通渋滞が続いていたようです。午前中から日が照り始めたため、午後にはほとんど雪が解けてしまいました。それでも、日陰の雪はまだ残っていますが。。。さきほど美術鑑賞論B(三学期)の授業が終わったばかりです。 

 今日は、昨日の続きの芸術鑑賞論B(一学期)の中で行った対話型鑑賞と、今、終わったばかりの芸術鑑賞論B(三学期)の授業の振り返り、この両方を掲載します。興味ある方をご覧下さい。

●1月24日(水)芸術鑑賞論B(三学期)の振り返り
 一学期に対話型の鑑賞方法の検討と実践をしました。二学期には複数の作品同士を比較する比較型の鑑賞方法、更に美術作品の良い悪いという判断力を育成する美術批評教育という鑑賞方法についての検討・実践をしました。一学期は石崎和宏先生、二学期は和田学がそれぞれ主担当の教員となり授業を進めてきました。
 そして、三学期には、石崎先生が主となり、受講生の方自らが、“美術鑑賞を深める”、ということはどういうことなのかを考え、鑑賞者(受講生の方々)を対象にし、“鑑賞の深まり”を調査することになりました。当然、“鑑賞の深まり”は何なのか、各自受講生の方により異なりますので、調査を始める前に、この授業で各自が調査方法や評価の基準などを発表し、他の方の意見を取り入れることで、鑑賞の調査に対する考え方を再点検してもらうことになりました。
 今日の受講生の方のお二人の発表は、非常に斬新なものでした。一人の方は、美術を鑑賞する際、鑑賞者へ作品の情報を与えると、どれだけ鑑賞行為が深まるのか、を調査するようです。作品の情報とは作者の生い立ちなど、伝記の他に学者が調査した歴史的事実もあるわけです。それらの情報を、対話型鑑賞中の人に情報投入することで、その後、どれだけ“鑑賞が深まった”のか調べるというものです。
 もう一人の方は、そもそも、ある人が“鑑賞を終える”ということはどういうことなのかを問題にしています。そして、“鑑賞が深まる”ということは、“鑑賞が終わった”、“深まった”と鑑賞者自身が判断することだとしています。それを踏まえたうえで、 “鑑賞の深まり”とは、鑑賞者個人の体験をいかに作品と結びつけれるのか、ということへ設定し、それを調査するようです。
 来週からは、授業の中で、受講生の方々の鑑賞調査の実践が始まります。とても楽しみです。随時、公開していきたいと思います。

●芸術鑑賞論B(一学期)対話型鑑賞について
さて、昨日は、実際に対話を中心にした鑑賞方法をどのように展開してゆけばよいのか、その例を提示していました。今日は、その展開部です。
 青木孝浩先生(宇都宮市立一条中学校)の「対話型鑑賞法における『言葉のツール』考察レポート」を参考にさせて頂いております。
■鑑賞が始まった直後、進行役の方は、生徒へ作品の中で気づいたところから何でも指摘できるように促します(前回のブログを参考)。

■トーク中の発問*生徒が発した言葉に対し、根拠を言わせると良い。
 「どこからそう感じた?」「なぜ、そうだと思う?」「さっき、○○という違う意見を言った人もいましたね。どうでしょう。」「○○の意見が多かったから、そこからよく観てみましょうか。」「同じような考えを持った人、いるかな(挙手させる)」「たくさんの意見が出たから、ちょっと整理してみようか。(整理して伝える)」「今言った意見、もう一度言ってくれるかな。」「そのことについて、他のクラスで○○なんていう意見も出たよ。」「もっと隅の方まで良く見てごらん。」

■トーク終盤の発問(まとめに向けて*あまり一つの方向にばかり絞ってしまわないよう気をつける)
「いろいろ意見が出たけど、あらためて、どんな作品だと思う?」「どうして作者は、こんな風に描いた(作った)んだろうね?」「この絵に物語をつけるとしたら、どんな題名をつけてみる?」「どんな作者のメッセージが込められているんだろうね。想像してみよう。」「みなさんだったら、同じテーマでどんなものを作るかな(追体験への導き)」「この作品、みんなだったらどんな所に展示したいですか。

*閉ざされた質問:生徒の思考を止めてしまう注意すべき発問
1.無理にまとめようとしたとき
2.生徒の発言が待ちきれないとき
3.作品への思い入れが強すぎる場合

注意したい言葉かけの例(*かならずしも悪いというわけではないが、できるだけ控えたい言葉の例です) 
「○○は、どう?○○にも見えてこないですか?」「○○は、○○という感じに見えませんか?」「その考えは面白いですね。でも実は、○○ということです。」「実は○○ということなんだけれども、みんなはどう思う?」「この作品から、どんなことが分かるかな?」

 明日は、鑑賞者の意見が出ない時、進行役はどうするのか、意見が偏った場合、広がっていかない場合はどうするのか、について掲載します。
(文責・和田学)

2012年1月23日月曜日

対話型鑑賞について(2)ー実践へ向けて

こんにちは。今日は前回(金曜日)の対話型鑑賞についての続きです。(文責・和田学)

 前回までのまとめ 芸術科教育コースでは、芸術鑑賞論B(通年)の一学期において、対話型鑑賞という芸術鑑賞の方法論について受講生の方々が学び、そして実践をしました。対話型鑑賞は、ただ単に美術作品を前にして鑑賞者が自由に語り合うというだけではなく、そこには司会者、進行役のようなファシリテーターと呼ばれる人物がおります。このファシリテーターは、主に鑑賞者達の活発な意見を促す他に、意見をまとめたり、鑑賞活動を活性化・調整する役割を果たします。そして、このファシリテーターの役割は 主に、受容(鑑賞者達の意見を受け入れる)・交流(鑑賞者同士の互いの対話を調整する)・統合(鑑賞者達の対話をまとめ、対話の流れの転換を計る)という、三つがあります。

では、この進行役(ファシリテーター)は、実際にどのような言葉かけをすることで、対話型鑑賞を進めてゆくのでしょうか。 

芸術鑑賞論Bの授業では、以下のレポートを基に、実践へ向け、好例を捉えることになりました。中学校の現場で働く先生が、生徒達を対象にして具体的な内容を記したもので、大変分かり易く記されております。学校現場の場合、進行役(ファシリテーター)は先生ということになります。

以下、青木考浩(宇都宮市立一条中学校)「対話型鑑賞法における『言葉のツール』考察レポート」をまとめてみました。


●対話型鑑賞のねらい
1.主として美術作品に親しんでもらうことをねらいにした授業
2.作者の制作意図や作品の主題に迫ることをねらいにした授業
3.自分なりの解釈を作ることをねらいにした授業
4.造形要素や技法の工夫を考えることをねらいにした授業
5.時代背景や作者の人物像に迫り作品の価値に迫ることをねらいにした授業

●対話型鑑賞における生徒の活動
1.作品を隅々までよく観ること
2.観て感じたことを言葉に出すこと
3.意見を共有すること
4.共有した意見から自分なりの新しい考えを創造すること

●教師が意識する言葉のツール
1.作品の隅々まで観させる言葉
2.言葉に出てきた言葉を、受容、確認する言葉
3.共有化を図るために、繰り返し、異なった意見の取り上げ、転換といった言葉
4.考えを創造するために、視点の変換、集約、振り返り、情報提供などの言葉

次に実践へ向けた言葉かけの例です。

●授業開始最初の「投げかけ」
 美術作品を見せて、生徒全員に意見を発表してもらう。

「この絵の中で、気になるところ、気づいたこと、発見したこと何でもいいから言ってごらん。(必要に応じて紙に書かせても良い)全員に、発表してもらいます。」*この最初の教師の言葉掛けにより、生徒がどのような視点を持っているのかを知り、その後のトークの流れを知ることができる、としています。

●全員発表中の「受容・確認」

「なるほど、いいところに気づいたね」「どこがそうなっている?」「他の人も気づいたかな?」「後で、みんなでそのことを考えてみましょう。」「それは先生も気づかなかった、すごいね。」「○○ということでいいかな?」「どうしてそう思った?」「そこまで考えてくれたんだ。」「なんで、『そんな物を・そんな風に・そんな色に・そんな形に』描いたんだろうね」

 明日は、授業の展開部の発話についてです。


2012年1月20日金曜日

対話型鑑賞について(芸術鑑賞論B一学期)

今日は、芸術鑑賞論Bの一学期の授業の中で中心テーマとなった、対話型鑑賞について詳しく述べていきたいと思います。

 前回も記しましたが、この対話型鑑賞は、ただ単に芸術作品を複数の鑑賞者が対話をしながら鑑賞行為を進めてゆく、というだけではなく、進行役(ファシリテーター)という司会者、まとめ役がいることで、ある程度、鑑賞者のみなさんの意見をまとめたり、積極的な対話を促すための言葉かけなども行います。この芸術鑑賞論の授業では、受講生のみなさんがこの進行役を務めることで、あらためて対話型鑑賞の有効性について考えてもらうことになります。

 先ず、芸術鑑賞論Bを一学期に始めるにあたり、どういう基本文献を用いたのか記しておきます。いわゆる“対話型鑑賞”は、主にニューヨーク近代美術館において勤務していたアメリア・アレナス(Amelia Arenas)という人物による『なぜ、これがアートなの?』(和文題目)という著書を通じ、広く普及しました。日本では上野行一さん監修『まなざしの共有ーアメリア・アレナスの鑑賞教育に学ぶ』(淡交社)により分かりやすくアレナスの対話型鑑賞が紹介・説明されています。芸術鑑賞論Bにおいても、先ず上野さんのこの著書を基本文献とすることで対話型鑑賞の理解を深めることになりました。
 特に上野行一さんの『まなざしの共有』から、第二章「対話を促す三つの基本』を基に、受講生の方々がデイスカッションをしました。

 この第二章には、人々が芸術作品を鑑賞をする際に必要な態度として、ある特定の芸術の専門家による意味付けを受け入れるのではなく、鑑賞者による自由な鑑賞行為の必要性が求められています。確かに、私達一般の人々(美術の専門外)は、美術館などで美術作品を鑑賞する際、ある特定の美術批評家や美術史家などの専門的な研究者、あるいは制作者による美術作品への価値観や意味付けを一方的に受け入れることが多いのではないでしょうか。
 上野さんの説明によると、アレナスの対話型鑑賞は、そうした特定の見方を押しつける鑑賞行為から脱却し、鑑賞者自らが自分の感覚や思考をはたらかせて作品と対峙することを重視するものとされます。対話型鑑賞の進行役は、鑑賞者のこうした行為を促す役割を務めることになります。
 では、進行役(ファシリテーター)は対話型鑑賞を進める際、具体的にはどのような行為をすればよいのでしょうか。
 上野さんの『まなざしの共有』53頁には、アレナスの対話型鑑賞において、進行役が必要な三つの行為をあげています。

◎受容ー観衆の意見を受容する
◎交流ー観衆相互の対話を組織化する
◎統合ー観衆の意見の向上的変容を促す

 この三点が、対話型鑑賞における進行役の基本的な態度です。
 次回はこの三点について説明したいと思います。(文責・和田学)

2012年1月19日木曜日

芸術鑑賞論Bの授業について(一学期)

みなさん、こんにちは。できるだけ、こまめに更新してゆきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

 今日(1月19日)は、芸術科教育コースの先生と院生さん達が、同大学内の丸善書店にて集り、芸術科教育コースの院生室に置く蔵書を選びました。特に、美術や教育に限られることなく、幅広い視点で蔵書が選ばれ、購入が決定しました。毎年、蔵書を増やしてゆくことで、充実した学習環境が整ってきています。

 さて、今日は火曜日三限に開講されている芸術鑑賞論Bについてお話ししたいと思います。

 芸術鑑賞論は、簡潔に説明しますと、その名前の通り、芸術の鑑賞に関して理論的な内容を検討する授業です。

 特に、平成23年度は、対話型鑑賞という方法論の検討から始まりました。対話型鑑賞は、美術作品に対して何人かの人々が対話をしながら鑑賞を進めてゆく、というものです。ですが、好き勝手に話しあうだけでは、意見もばらばらになり、鑑賞は深まりませんから、その中に一人、進行役(ファシリテーター)という人物を置くことで、鑑賞行為の方向をある程度、コントロールする役割を果たします。進行役は、意見をまとめる、誰かの意見を言い換える、など、様々な言葉かけの技術が必要です。さらに、経験を積むことで熟達してゆくことが必要でしょう。一学期は、この進行役の技術のトレーニングを、院生さん達が積むことで、ワークショップや授業など幅広い場で活用できることが求められているといえます。ですが、この授業では、院生さんの鑑賞方法に対する考え方が深まり、そうしたうえで自分達独自の鑑賞方法へ生かすことができる、ということが最も望ましいものですから、特に対話型鑑賞自体の技術習得そのものに重点を置くものではありません。そのため、対話型鑑賞の実践とは別に、この方法論の有効性に対するデイスカッションも盛んに行うことで、絶えず自分自身の鑑賞理論を批判的に捉える授業も何度も行いました。

 この美術鑑賞論の授業は通年ですが、一学期の授業の受講生の方々は、芸術科教育コースから四人、芸術支援専攻から四人、現職の教員の方が一人、計九人の方が集まりました。芸術支援コースは、芸術専門のコースに所属する専攻です。美術館経営や幅広い意味での芸術発展のための支援について考えるコースです。この授業の受講生の方々の所属を見ても分かりますが、学校教育の美術の授業に限らず、美術館やギャラリートークなど様々な場で鑑賞行為が行われることを視野に入れた授業です。こうした芸術専門分野と教育分野が融合した授業の開設は、他の国立大学法人の教育学部・教育研究科にはなく、芸術専門のコースを置いた筑波大学だからこそ、可能なものだと思います。
 
 一学期は、対話型鑑賞に関する文献を各自がまとめ、授業で発表した後、皆で意見をかわし合い、この方法論の有効性について検討することから始まりました。更に、院生の方々一人一人が作品を選定し、自らが進行役(ファシリテーター)となって受講生の方々を対象にして実践を行いました。そして、一学期(4月〜7月)の終わりには、各自、対話型鑑賞に対しての有効性について検討したレポートをまとめました。(*長くなりそうですので、今日はここで終えたいと思います。文責・和田学)

2012年1月18日水曜日

今日から、芸術科教育コースの授業内容について公開していきたいと思います。

みなさん、こんにちは。今日は、芸術科教育コース(筑波大学大学院修士課程教育研究科)が、2011(平成23)年度、必修授業として開講してきた三つの授業について簡単に説明したいと思います。
 今後、このブログの中で、三つの授業内容について詳しく発表していきたいと思います。ですが、ただ経過を公開するだけでなく、どなたでもこのブログを通じ、美術鑑賞や美術の教育的意義とは何か、学べるようなものにしたいと思います。非力ながら私の説明を加え、できるだけ簡単で分かり易い文章にするよう努力致しますので、美術について少しでも関心のある方は、ご気楽にこのブログへ訪れて下さい。お待ちしております。なお、この文章の文責は、芸術科教育コースの和田学です。

■芸術鑑賞論B(通年・火曜日三限 )
● 目的/人々は、芸術をどう理解するのか、その問いにかかわる研究成果を検討しつつ、美術教育における鑑賞教育の方法論について考察します。
● 実際の展開/一学期は美術作品を鑑賞する際、集団で対話をしながら鑑賞を進める対話型鑑賞法について学習し、討論・実践をしました。二学期は、二つ以上の作品同士を比較しながら行う比較鑑賞と美術批評を取り入れた鑑賞実践について討論・実践をしました。三学期は、美術鑑賞を深めるためのモデル図を学生さん達が各自、提案するというものです。

■芸術科教育研究B(通年・火曜日五限)
 ●目的と展開/大学院修士課程の学生さん達の各自の研究テーマに関して、毎回、担当者を決めて発表して頂き、それに対し他の学生さん達が質問することで、各自の研究内容の深化を計る授業です。

■芸術科教育実践演習(通年 水曜日三限)
● 目的とねらい/美術教育を実践する際、または現代の美術教育の現状において、どのような課題があり、どう問題設定をすればよいのか、更にその問題解決のプロセスについて考察してゆく授業です。考察する際の基盤となる理論は、西條剛央さんの『ライブ講義 質的研究とは何か』(新曜社)です。

 一年間を通じ、かなり充実した授業内容になっていると思います。
 できるだけ、頻繁に更新をしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。