芸術科教育コースによるブログです。授業内容や学校生活の様子などを更新していきます。

2012年6月27日水曜日

芸術鑑賞論A(9回目)の授業について

こんにちは。更新が遅れてきましたが、続けていきたいと思います。  先週、火曜には芸術鑑賞論A(9回目)の授業がありました。  この授業では、自分の鑑賞行動を客観的にみることで、鑑賞技能を自己育成する、「メタ認知」をテーマに一学期間続けてきました。どのようにして、自分の鑑賞行動を客観視するかといいますと、例えば鑑賞して気がついた内容を文章で記して改めて見直すこと、また、他の人に自分の鑑賞行動を見てもらうことで、自分の気がつかなかった鑑賞行動に気がつくなど、様々なものがあげられます。  今回の授業では、アートゲームというジャンルを用いて鑑賞行動をメタ認知することになりました。アートゲームとは、美術館のギフトコーナーにも多くおいてありますが、美術作品の複製画を用いて作られたカードゲームやパズルのことを指します。日本では、あまりこうしたアートゲームが教育素材として普及しておりませんが、アメリカでは学校教材として普及しております。今回の授業では、ピカソの作品「ゲルニカ」のジグソーパズルを用いました。描かれたモチーフがバラバラになっています。背景や一部のモチーフはそのままで、磁石のついたピースをその上に貼付けることになります。特に、本物通りに完成させる必要はなく、画面構成上のバランスをみながら自分の判断で完成させてよいのです。ただ、完成した後、なぜこのようなピースの配置にしたのか、理由を他の方に説明しなければなりません。授業では、2人一組になり話し合いながら完成させました。  ゲルニカは中学校の美術の教科書にも良くあらわれるものなので、誰もが見たことがありますが、いざ、組み合わせるとなるとなかなか完成品が思い出せないものです。パズルが終わった後、改めて、本物のゲルニカを見て、自分が認識できていなかった部分が明らかになり、今までよく見ていなかったことが分かり、新しいゲルニカ作品が目の前に現われることになりました。

2012年6月15日金曜日

芸術科教育特講(9回目)の授業がありました。

こんにちは。この授業も来週、後一回を残すものとなりました。今回は、「第13章 多声的エスノグラフィーによる教師の思考と信念研究」をテーマにデイスカッションを行いました。多声的エスノグラフィーとは、映像により録画したものを様々な立場の方に見て頂き、発話して頂き、その発話内容を分析するという研究方法です。この研究では、保育園の授業風景を録画したものを、保育者の方に視聴・発話して頂き、その内容を分析しています。その後、発話内容から良い保育者のイメージ、良くない保育者のイメージという二つの相対的なテーマを基に、発話を分類します。この研究では、保育者が自分自身でも気がつかなかったような行動を調査・分析し、それを第三者である研究者が分析することで、新しい知見を得ることが目的です。ところで、他の授業となりますが、芸術鑑賞論の授業においても、鑑賞行為におけるメタ認知ということが問題とされています。メタ認知は、自己の鑑賞行為を再認識することで、鑑賞の技能を養うことが目的とされております。今回の研究のように、映像録画したものを、自己が視聴し、振り返り、その発話記録をも再び聞き返し、再認識するということは大がかりの活動となります。ですが、鑑賞活動においても、一度は試してみたいものです。

2012年6月14日木曜日

芸術科教育研究A(8回目)について

この授業は院生の方に研究発表をして頂き、デイスカッションをすることで研究内容の深化をはかるというものです。今回はお二人の方に発表をして頂きました。 (課題)「ファッション分野におけるアートマネージメント』  この研究のリサーチクエスチョン(問い)は、「ファッション展におけるアートとの関連性とは?」「アートには共通する部分があるのだろうか?」「そもそもファッション展の定義とは?」が考えられています。また、ファッション展と教育普及活動との関連性として、「ファッション展におけるワークショップの事例について」「現代アートの展覧会の教育普及活動と比較」があげられています。 (課題)「アートプロジェクトにおける持続可能性について」この研究は、地域で行われているアートプロジェクトを、どうすれば長期に渡り持続させることができるのか、という問いをもっています。資金の工面なども問題となりますが、特にアーテイストと地元民との仲介役を務めるコーデイネーターを置くことが重視されています。実例として、長野県の上信越国立公園の山ノ内町・志賀高原のアートプロジェクトを対象として、どうすれば今後も継続していけるのかを考察していきます。

2012年6月13日水曜日

芸術鑑賞論A(8回目)の授業について

水曜日には芸術鑑賞論Aの授業がありました。受講生の方々には、課題として「学芸員応募のための鑑賞文」というものを書いてきて頂きました。この課題は、スーラ[グランド・ジャッド島の日曜日]を見ながら、鑑賞文を記す、というものです。美術館学芸員の就職試験に出されるような状態を想定して書くことになりました。この絵画作品の美術史的な背景を記したものも配布されておりますので、その内容も参考にして鑑賞文を作成して頂きました。 授業内では、三人一グループとなり、書いてきた鑑賞文を朗読してもらい、それに対して他の2人の方がコメントを記すという活動をしました。更にそのコメントに対し、朗読した方もコメントを再び記すという活動をしました。他の方のコメントを参考にしながら、自分の記した鑑賞文を客観的に見ることが期待された活動です。鑑賞行動のメタ認知と考えられています。メタ認知とは、自分自身の活動を客観的に見て、反省的に認知することです。自分の鑑賞活動を反省的に認知することで、鑑賞の技能を自己育成することが期待された活動だと考えられます。

2012年6月12日火曜日

芸術科教育特講(8回目)の授業について

こんにちは。この授業は『はじめての質的研究法ー教育・学習編ー』(東京図書)を購読し、質的研究法の美術教育分野での活用の可能性を検討してゆくことが主な授業目的となっております。今回は「第八章 教室談話を介した学習の変容課程の記述分析」です。この研究は、道徳の授業中、生徒が談話を重ねてゆく中で、教師の指導により、生徒が話す対象の人物が変容するという場面を考察したものです。教師の側に向いて談話していた生徒が、指導を受けると、他の生徒に向け談話を始める、などがその例です。この研究で明らかになってきたことは、教室での生徒の談話が言語のみに限らず、生徒の立ち位置や身体の動き、視線の動きなどの非言語的な要素により成立していることです。また、教師の指導による生徒の談話行為の修正や、生徒同士の関係も大きく関係するそうです。更に、談話の文脈は絶えず変化してゆきますので、過去に話した内容が、その後に話した内容により意味が変わることもあるそうです。美術教育分野においては対話型鑑賞を視野に入れてはどうかという意見などが出ました。

芸術科教育研究A(7回目)の授業について

この授業は、院生の方達が研究内容を発表し、それについてデイスカッションをすることで今後の研究の指針とするものです。  今回はお一人の方が発表されました。以下、配布されましたレジュメを基に、私(*和田)が一部をご説明したいと思います。 (仮題)「途上国における美術教育開発はどうあるべきかーモルデイブ共和国における教育実践を事例とした考察ー」  この院生の方は、青年海外協力隊の一員として、実際にモルデイブ共和国に小学校教員として勤務されました。その経験を基に、同国の図画工作•美術教育がどうあるべきか、今後の指針を検討してゆく研究です。今回は、なぜモルデイブが美術教育を軽視しているのか、という要因の背景について社会的・文化的なものから述べられました。この国では、特に理数教科が重視されています。その理由は、経済発展に直接つながるという見込みがあると考えられているからだそうです。美術教育が軽視されている要因の一つに、その経済発展に結びつかない、ということが先ず考えられるそうです。次に、美術教育は、明確な成果が見えずらいことが挙げられております。更に、美術教育は多くの材料・道具が必要ですが、その資源に乏しいことがあげられます。以上が社会的要因と考えられるものです。また、戦前・戦後の日本もそうなのですが、美術教育は元来、欧米諸国から導入されながら、自国の中で試行錯誤を重ね、発展していくことが多いです。ですが、モルデイブでは、文化的価値観が独特のため、諸外国の教育者の理解・介入が難しい、という文化的要因が考えられます。また、無理に諸外国が同国に介入すると、モルデイブ本来の文化を消滅・変化させてしまう危険性もあるため、諸外国の教育関係者の方達の積極的な介入を妨げているのではないかと、指摘されています。

2012年6月10日日曜日

平成25年度入学説明会のお知らせ(筑波大学教育研究科・大学院修士課程)

平成25年度に筑波大学教育研究科(大学院修士課程)に入学をご希望される方々へご説明会が開かれます。  ◆三専攻(教育研究科/スクールリーダーシップ専攻・教科教育専攻・特別支援教育専攻)合同説明会  日時:2012年7月7日(土)13:00~(2時間程度)  会場:筑波キャンパス(文科系修士棟8B210)    内容:研究科紹介,入試・カリキュラム説明,専攻・コースごとの説明  問合せ:教育研究科事務室 029-853-4604  申込不要,当日参加OK   芸術科教育コースからも石崎和宏先生と私(*和田)や院生の方が参加します。入学しようかどうしようか迷われている方も含め、御気軽にご参加ください。

2012年6月7日木曜日

芸術鑑賞論A(7回目)について

こんにちは。筑波もだいぶ暑くなりました。  先日、火曜日には芸術鑑賞論Aの授業がありました。前回の続きとして、受講生の方々が自らの鑑賞文を自己分析した結果を、発表をしました。その後、この鑑賞文の分析のためのカテゴリーを用いて、受講生の方々が二人ずつペアになり、複製画を用いて対話型鑑賞をし、鑑賞中に自己分析をしながら鑑賞行為をすすめることになりました。  鑑賞中の自分自身を再認識しながら鑑賞行為を続けることで、絶えず、見方や考えを更新することができる試みだと思います。ですが、実際に鑑賞文のカテゴリー表を見ながら、鑑賞行為中に自己分析していくことは、なかなか難しいものです。それに、鑑賞行為の自然な流れを壊してしまうかもしれません。      そこで、石崎和宏先生が開発した携帯サイズの鑑賞キットを用いることになりました。この鑑賞キットは、数センチ四方の厚紙の中央に透明な四角いホルダーが付いておりますので、その中へ複製画を入れ、その周辺に、作品要素と鑑賞行為の分類名を記した小さなタグが、キットの周辺にぐるりと縦横の一方の片辺に計10個付いているものです。ちなみに非売品です。鑑賞する複製画の各要素の項目として、主題・表現性・造形表現・スタイルという名称のタグが4つ並び、鑑賞行為については、連想・観察・感想・分析・解釈・判断のタグが6つ横に並んでおります。タグを引っ張ると、タグが伸びて、その言葉の意味が書かれた短文を読むことができます。  今回、ペアで対話型鑑賞をしてもらいましたが、一方の方が進行役となり、もう一方の方は鑑賞する側となります。進行役の方は、鑑賞した方の発話内容から、どの作品要素に該当するのか、どのような行為に該当するのかを、逐次考え、それに該当するタグを引っ張ることで、鑑賞者の方に自分の鑑賞行為を認識してもらいます。メタ認知と呼ばれ、自分の認知の行為を更に客観的に認知する活動です。

2012年6月5日火曜日

芸術科教育研究A(6回目)について

先週、火曜日に芸術科教育研究Aの授業がありました。今回、発表された研究内容はお二人から二本です。以下、お二人のレジュメから研究の背景、研究の目的などを抜粋させて頂きたいと思います。 ●(仮題)「『Oomori Art Map』による住民の地域芸術文化振興に対する意識調査」 研究背景/近年、様々な話題性・先見性に富む“アート”の情報があるなか、最も身近な地域芸術文化を意識する機会は少ない。そのような状況の中で、人々の地域芸術文化に対する意識や関心とはどのようなものなのか。両者の関係性を考察するにあたり、アートマップという媒体が一つの重要な核になると考えた。 研究目的/1アートマップの制作を通じ、地域住民が地域のどのようなものを、どのように“アート”と定義づけ、取捨選択を行っているのかを調査することで、その地域に内包されている“アート”の実態を明らかにしていく。 2アートマップが地域の芸術文化と住民を繋ぐ媒体としてどのように機能するのかを検証し、今後のアートマップの有効性を提示していく。 研究の意義/1アートマップの制作過程を追うことで、成果物を分析するだけでは得ることのできない、住民の地域芸術文化に対する意識の変化を明らかにすることができる。 2住民の意識をアートマップという媒体に落とし込むことで、第三者がその地域の芸術文化、又はその場所を選定した住民の意識を理解することができる、また、マップにすることで地域芸術文化に関する情報の蓄積になる。 ●(仮題)「知的障害児のコミュニケーションを促す美術科授業に関する研究—遊び的要素を取り入れた授業の構想と実践—」 研究の目的/本研究の第一目的は、知的障害児を対象とした美術科授業で生徒間のコミュニケーションを促すための美術科授業を開発し、実際にコミュニケーションが促されたかを明らかにすることである。授業でのコミュニケーションを判断するために、先行研究や参考資料を基にコミュニケーション分析シートを開発する。本研究の第二の目的は、アートに見られるコミュニケーションを検討し、その意義を明らかにすることである。本研究で実施する授業では、コミュニケーションを促すために「遊び」の要素を取り入れる。この「遊び」の要素は、近年見られる現代アート作品やワークショップ作品でコミュニケーションを促す要素である。つまり、「遊び」の要素を取り入れた美術科授業の実践は、制作過程において、知的障害児の生徒が子ども同士で関わり合い、学び合う具体的な仮説をコミュニケーションという観点により検証するものである。 研究要素/知的障害児における美術科授業は、他教科や他領域と比べて先行研究が少ない。また、知的障害児における美術科授業での共同的な学びに関する先行研究が見当たらなかった。また、知的障害児における美術科授業は、生徒の発達段階が各々異なることやテイームテイーチングという指導の特性から個々の指導に着目しがちであり生徒間のコミュニケーションに着目する傾向が薄い。しかしながら、特別支援学校卒業後にコミュニケーションによる問題によってトラブルが起き、彼らの生活に支障をもたらすことがある。そのため、授業でのコミュニケーションは知的障害児にとって他者を意識して関わり合うことや「学びの共同体」として生徒同士が学習を通じて主体的な学びを育成するために必要である。