芸術科教育コースによるブログです。授業内容や学校生活の様子などを更新していきます。

2012年2月28日火曜日

芸術鑑賞論Bの授業を終えて(4)

こんにちは。先週から、芸術鑑賞論(B)の受講生の方々の三学期のまとめのレポートを公開させて頂いております。
三学期は、美術鑑賞の行為中、鑑賞者にとって鑑賞が“深まった”と判断できるものは何なのか。また、それはどのような鑑賞実践を行い、どう調査すればよいのか。こうした問題点を踏まえ、受講生のみなさん各自に実践して頂きました。

 今日は、鑑賞の“深まり”が、“情動を引き起こすこと”と考えておられる受講生の方の実践発表と考察です。情動は、鑑賞者の個人的な好き嫌いの感情が起こる、または、揺れ動くことを指すと思われます。以下、基本的に発表者の方のレジュメを基にして公開しますが、*マークは私(和田)が補足説明を加えた箇所です。

■鑑賞実践の目的
意図的に情動を引き起こすことで、より深い美術鑑賞の実践を目指す。

■実践の方法
*先ず、諸外国の風景がポストカードサイズになった写真の複製を数枚、鑑賞者達の前に差し出す。
1.鑑賞者が自分の好きなカードを選択する。・・・「好き/嫌い」という“情動”の発動

2.選んだ理由を説明する。・・・「○○が△△(だから好き)」という“記述・分析・解釈”
*記述(写真の中にあるものを客観的に指摘すること)・分析(写真の中にあらわれたもの同士の位置関係や形・線・色彩などの造形要素について分析すること)・解釈(作品の意味について自分の考えを述べること)

3.情報カードを受け取る。*風景に関する情報(情報を用いるかどうかは鑑賞者が選択できる)

4.選んだカード(今回は風景写真)の宣伝文句を考える。・・・作品の価値を定める“判断”
*判断(写真の価値について自分の判断を下すこと)

■実践結果
1.選択カード「アユタヤ(タイ)」選択理由「もう一回東南アジア旅行したいな」宣伝文句「ここに400年の歴史アユタヤ王国が」
2.選択カード「ヴャラナシ(インド)選択理由「ごちゃごちゃしてる。色がたくさんある。鉛筆みたいな建物」宣伝文句「インドのヒーリングスポット:反省しよう、この場所で」
3.選択カード「オックスホード(イギリス)」選択理由「色がきれいだから。イギリスに行きたいから」宣伝文句「大学とは思えない素敵な街並み(建築)」
4.選択カード「バイブリー(イギリス)」選択理由「色あいが好き。手前の花がかわいい」宣伝文句「レンガづくりの小さな屋根のおうち〜ウイリアム・モリスも愛したカントリーサイド〜

■結果の考察
・4人中3人が、選択理由に客観的な造形要素ではなく、個人的な嗜好や経験を結びつけて挙げていたことが特徴的であった。従来の理論から言えば、美術鑑賞において個人的な嗜好は極力省くことが望ましいのかもしれない。だが、活動の手立てを工夫することによって、鑑賞者の嗜好・感情・経験のみによるのではなく、しかしそれらを無にもしない鑑賞が可能になるということがわかった。アカデミック(*学術的)な理論と、プラクテイカル(*実践的)な手段を統合することが重要なのだと思う。
・宣伝文句を考える活動は、かなり情報に左右される。最初に受けた印象をもっと活かすために、情報の量を調節する、段階的に情報を小出しにするなどの工夫が必要かもしれない。
・今後は、情報の発動の有無が鑑賞の深まりにおいて具体的にどう影響するのか、そして今回の実践方法が他のジャンルの作品でも有効であるかを検証してゆきたい。